肩高約2.5メートル、体長約3.6メートル。右の写真は、今から約1万年前、瀬戸内海国立公園地域で闊歩していたナウマンゾウの復元模型です。模型の前に立つと、太くてぎゅっと曲がった牙の迫力に思わず足がすくみます。 ナウマンゾウをはじめ、瀬戸内海地域では、シカやスイギュウなど多くのほ乳類の化石が発見されています。彼らが活躍していた時代は氷河期であったため、海面が今より130メートルぐらい低く、現在の瀬戸内海は、ほとんどが陸だったのです。
そのほとんどは絶滅しましたが、瀬戸内海では、今なお、太古の生き物が脈々と息づいています。「生きている化石」で知られるカブトガニや「進化の生き証人」と呼ばれるナメクジウオなど、地球の歴史、生命の歴史を伝える生き物が生息しています。 彼らの生きてきた歴史には、私たち人の暮らしぶりも反映されてきました。日本の高度成長期時代、開発や海洋汚染などによって個体数が激減した種もあれば、護岸工事によってその数を増やした種もいました。 途切れることのなく変化する環境の中で、生き物と人との歴史が今もなお続いています。
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指定日 |
:1934年 (昭和9年) 3月16日 |
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面積 |
:66,934ha (2014年3月31日現在) |
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年間利用者数 |
:4,029万人(2012年度) |
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関係都道府県 |
:兵庫、和歌山、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、福岡、大分 |
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掲載記事は2001年 (平成13年) 11月取材当時のものです |
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人も生き物も暮らしやすい日本の地中海
瀬戸内海国立公園は、近畿、中国、四国、そして九州の10県にまたがっています。大部分を占める瀬戸内海は、紀淡海峡、関門海峡、豊予海峡によって外海と隔てられており、容積、面積共に日本最大の 閉鎖性海域です。また、穏やかな波間に浮かぶ約3,000にも及ぶ島々特有の「多島美」で有名です。1934年(昭和9年)に、阿寒など7つの国立公園と共に日本で初めて国立公園に指定されました。人文景観もすばらしく、1996年(昭和71年)にユネスコの世界文化遺産に指定された広島県厳島神社は、日本3景の一つとして広く知られています。
この地域は、「日本の地中海」と呼ばれるほど気候が温暖で、海上交通の便が良かったため、昔から多くの人々が沿岸部に暮らしてきました。陸では、温暖な気候を利用して、温州みかんなどの段々畑がつくられ、瀬戸内海特有の風景を生み出しました。瀬戸内海特有の風景といえば、アカマツやクロマツなどが海岸沿いに植生する白砂青松の風景も有名です。 ところで、同じ閉鎖性海域で瀬戸内海の約130倍もの面積がある地中海と比べると、瀬戸内海は何百倍ものミネラル分があるといわれています。そのため、エサとなる生き物が多く、生き物にとっても魅力的な生息地となっています。理由としては、潮の流れが豊かであることや、瀬戸内海がすり鉢状になっているためと考えられています。徳島県では、ミネラルが豊富な海水に洗われたこの地域の砂を使い、甘くておいしいサツマイモの生産地として有名です。瀬戸内海は、構造上、生き物に必要なエサや絶好のすみかが豊富にあるのです。
このように、人にとっても、生き物にとっても暮らしやすい瀬戸内海地域ですが、人の暮らしの変化が自然環境に様々な影響を与える結果となりました。 護岸工事による自然海岸の減少、工場や家庭排水、養殖業...。瀬戸内海のこうした環境の変化は、生態系の変化や水質汚染、浄化力の低下など様々な問題を生み出しました。 高度成長期時代のほんの約半世紀であっという間に悪化してしまった瀬戸内海。現在は、法制度や下水処理設備が整ったことから、状況は随分改善されました。決してすぐにその状況が元に戻るものではありませんが、未来に価値のある、美しい海を残していくための取り組みが一歩一歩着実に始まっています。
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