環境問題に取り組むドイツの市民団体の中で、NABUと同じく重要な位置を占める団体、それが今回紹介するBUND(ドイツ環境自然保護連盟:Bund für Umwelt und Naturschutz Deutschland)です。BUNDは、連邦レベル、地域レベルの双方において、ドイツの環境政策に多大な影響を与えています。同時に、環境NGOの国際ネットワークであるFoE(地球の友:Friends of the Earth)のメンバー団体として国際的な活動も展開している団体です。
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BUNDのロゴが掲げられた事務所 (写真提供:小野さん) |
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BUNDには、2007年現在でなんと約40万人あまりの市民が会員として参加しているのだそうです。前回紹介したNABUに比べると歴史の浅い団体なのですが、その規模は今やドイツ最大クラスとなっています。
簡単に、その設立経緯についてご紹介しておきましょう。1974年から1975年にかけて、フライブルグを囲む黒い森(シュバルツバルト)とボーデン湖畔を中心に活動していた2つの自然保護グループ、そして、原子力発電所建設に反対していた「フライブルグ環境アクション」が、大きな政治力と影響力を持つために統合されました。この統合によって誕生した団体こそ、BUNDなのです。その後、各州にBUNDがつくられ、さらにその下に沢山の地域グループが成立していったそうです(参考文献:今泉みね子著「ドイツを変えた10人の環境パイオニア」)。なお、私たちが訪れた、ラインラント・ファルツ州のBUNDは、1973年に発足しています(※BUND全体が設立される前に州単位で環境・自然保護連盟が誕生していた)。その背景には、原子力発電所廃止運動があり、その後高速道路建設の中止、拡充反対などに活動が発展していったそうです。
こうして誕生したBUNDの主たる活動目的は、大きく3つに分けて掲げられています。 1.自然の保護 2.記念物保護(歴史的、自然) 3.環境保護(景観を含む)
そして、その目的の達成のために、主に次のような手法を用いて活動を展開していました。これらの中でも一番大切なことは、どこかの組織や思想に所属したり依存したりしないことであり、独立した意志と公平な立場を維持することであるとのことでした。
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〜・〜・〜 目的を達成するための方法 〜・〜・〜
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広報活動(情報を公にすること) / 環境教育(子ども、大人) / 都市計画への参画 / 意見の提出(現場での意見調整も含む) / 見た目にも美しい自然の保護活動(景観保護) / 法律で定められた環境保護に対する監視 / 土地を購入し地域的環境の維持管理(ごみを除き、必要な場合の植樹なども含む) / 環境調査 / 重要な地位にいるキーパーソンとコンタクトを取ること / 一般市民への啓蒙・啓発 |
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BUNDの組織は、NABUと同様に、地域グループ、州支部そして連邦本部(ベルリン)と3段階制を取っています。また、BUND全体の方針は連邦本部が決めており、全16州に置かれた州支部や、連邦全体で2,000を数える地域グループは、それぞれの特徴を考慮して独自の活動方針を定め、独立した活動を行います。
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お話を伺った州本部部職員 ミカエル・ウルリッヒ氏 (写真提供:今永さん) |
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ところで、3段階制という言葉を聞くと、いくら独自の活動方針が定められているとはいえ、連邦本部からのトップダウンがあるのではないかと、想像される方がいらっしゃるかもしれません。しかし、BUNDの場合は決してそのようなことはありません。州や地域の独立性をとても重視しているのです。例えば、「気候温暖化」というテーマが連邦本部から下りてきた場合でも、そのテーマが良いと判断された場合にのみ、州や地域のテーマとなりえるのであって、強制されるものではないのだそうです。このように、州や地域の活動方針の決定とその実施については、完全にそれぞれの判断に任されていました。
最後に、約40万人あまりの会員を抱えているBUND全体の収益について紹介しておきましょう
項 目 |
金 額 |
割 合 |
寄 付 |
5,411,688 Euro |
42.1% |
会 費 |
4,726,989 Euro |
36.8% |
プロジェクト
賛助金 (連邦、州、財団等) |
887,619 Euro |
6.9% |
団体収入 (書籍販売等) |
810,694 Euro |
6.3% |
遺産寄贈&罰金など |
607,418 Euro |
4.7% |
その他 |
399,102 Euro |
3.1% |
合 計 |
12,843,510 Euro |
100.0% |
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なんと、約1,200万Euro!!日本円に換算すると約21億円(1Euro=164円)となります。会員数もさることながら、その財務状況に唖然とさせられます。
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ラインラント・ファルツ州BUNDの組織構成 (BUNDの資料より) |
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今回紹介したBUNDや、前回紹介したNABUに共通していることは、市民といえども高い専門知識と強い意思を持っていること、すなわち「質の高さ」だと感じました。また、どちらも約40万人という会員を抱えており「量の豊富さ」も持ち合わせた団体といえることでしょう。この「質」と「量」を兼ね備えているからこそ、国内や国際環境政策に大きな影響を及ぼし続けることができ、市民社会から信用を得ることができているのではないかと痛感させられました。また、どちらも批判するだけに留まらず、具体的な代替案を提案し、それを実際に「行動」に移しているため、ドイツの環境分野を先導し続けることができているのだと感じさせられました。
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講師のミカエル・ ウルリッヒ氏とのやりとり (写真提供:小野さん) |
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あまりにも大きな2つの団体。日本では、このような市民活動はありえないのでしょうか。次回からは、具体的活動事例を紹介しながら、その辺りに踏み込んでいきたいと思います。
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