第9回に引き続き、今回も『環境ボランティア研修制度』について整理していこうと思います。
前回ご紹介したように『環境ボランティア研修制度』に参加する研修生は、それぞれの受け入れ先にて活動に取り組みます。受け入れ先については、ラインラント・ファルツ州だけでも、100箇所ほどあるとのことでしたが、この多様な研修場所と研修プログラムについては、毎年1冊の冊子にまとめられており、研修制度への参加を希望する若者が自由に選択できるようになっていました。受け入れ先の住所から年間プログラムまでが一目で分かるようになっているのです。
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左:受け入れ先が掲載された冊子 右:冊子にはそれぞれのテーマやプログラムが書かれている
(写真提供:山本)
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この冊子に掲載されるためには、まず、受け入れ先が独自に1年間の研修プログラムを考え、環境ボランテイア研修制度事務所(FOeJ)に提案します。提案を受けた事務所は、NABUやBUNDといった市民団体によって構成されている共同グループの助言を受けながら、研修生の受け入れ先として適切かどうか選考します。その後、適切と認められた場合には、受け入れ先として認定される仕組みとなっていました。
一方、研修へ参加を希望する若者はどのような流れで、受け入れ先が決まっていくのでしょうか。研修希望者は、環境ボランテイア研修制度事務所(FOeJ)によって作成されたHPや、各市民団体のイベント時や学校訪問などの広報を通じて、情報を入手します。また、連邦の環境省や労働省などでも冊子を受け取ることができるそうです。
そして、冊子などを活用し自身が参加したい研修プログラムを決め、環境ボランテイア研修制度事務所(FOeJ)に申込をします。応募者の面接が行われた後、応募者の希望に応じてBUNDやNABUなどの環境NPOが紹介されます。その後、応募者は紹介された環境NPOにて、数日間の実習に取り組み、その結果によって最終的な研修先が決定されるとのことでした。州によっては、担当事務所が機械的に研修先を振り分けるところもあるそうですが、ラインラント・ファルツ州では、研修生の様子を見るため、全員が「お試し期間」を経た上で、受け入れ先が決められていました。なお、面接の際には、学歴や州在住かどうかが問われる事はないそうでした。ただし、海外への(又は海外からの)応募者には、語学チェックがあるとのお話でした。
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受け入れ先が決まるまでのフロー図
(資料作成:山本)
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さて、『環境ボランティア研修制度』の使命は、「若者の環境意識を育てること、そして、一生、その意識を持ち続けてもらうこと」であることを紹介しました。こうした使命を持った制度ではありますが、若者を指導する教育者という立場に立った時、最も重視していることは、「研修生のケア」なのだそうです。つまり、社会性や技術の取得よりもむしろ、研修生のフォローこそが最も重要だと説明して下さいました。実際、毎年5%ほどの研修生に何らかの問題が生じているのだそうです。原因は研修生側にあることが多いらしく、研修先での人間関係などのトラブルがあるようです。若者に社会性を身に付けさせるということは、やはり大変なことのようですね。
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環境ボランテイア研修制度について説明して下さった菅沼さん(写真提供:山本) |
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ここまで、受け入れ先が決まるまでの流れを追ってきましたが、最後に研修期間中の様子についてご紹介しようと思います。今回、私たちが参加した海外研修中に、幸いにも日本からこの『環境ボランティア研修制度』に応募し、研修プログラムを受けている女性にお会いすることができました。彼女が研修を受けている「森の幼稚園」というところを例に、研修生の受け入れ体制についてご紹介しようと思います。
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< 森の幼稚園とは >
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- デンマークにて一人の母親から始まったもの。ドイツでは、まだまだ希少な幼稚園。
- 私たちが出会った女性の研修先は、母親たちの手で設立された3歳から6歳までの子供たちを対象とした私立幼稚園。
料金:8時〜12時半:109ユーロ/月 8時〜14時:139ユーロ/月
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ドイツでは無料の幼稚園もあり、そうした幼稚園と比較すると値段は高いけれど、非常に注目されているのだとか(ミュンヘンには160ユーロ/月の幼稚園もあるそうです!) |
- 森は私有地で、2007年で開園してから8年目になる。幼稚園として利用する場所を探すところから、全て母親たちが行なってきた。
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「森の幼稚園」は、幼稚園というものに対する考え方が通常と全く違う場所だそうです。まずは体力をつけることが重んじられ、続いて社会性を身に付けることが重視されるのだとか。そして、子供たちは毎日遊んでいるように見えるのですが、実は、森の中での遊びを通して、ナイフ等の道具の使い方から、投票等の民主的な解決方法を学んでいるのだそうです。
子どもとはいえ、なんだか社会教育を受けているようですね。また、『環境ボランティア研修制度』も素晴らしいと思いますが、こうした幼稚園の運営が全て市民の手によって行なわれているということも素晴らしいことだと感じました。
このような「森の幼稚園」で、研修プログラムに参加している研修生の受け入れ体制は次の通りでした。どの研修プログラムに参加しても、概ね、同じような状況だそうです。
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< 研修生の受け入れ体制 >
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- 食費 :103ユーロ
住居費 :154ユーロ
小遣い :154ユーロ
⇒ 合計月額:411ユーロ/約6万7千円(1ユーロ=162円で換算)
- この手当てについては、連邦、州、引受け先の三者がそれぞれ分担
- 健康保険などの社会保障もある(ドイツ人であれば国民年金、厚生年金もある)
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環境ボランテイア研修
制度事務所にて
(写真提供:小野さん)
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生活のやりくりは決して楽ではないそうですが、研修生の生活面を全て支援しているところはすごいですね。また、この『環境ボランティア研修制度』では、何らかのトラブルが生じた場合、受け入れ先の変更などの「やり直しがきく制度」となっているそうです。この柔軟性が人を育てる上では重要なことだと感じました。
そして、一番驚いたことは、こうした『環境ボランティア研修制度』を市民が運営していることでした。市民団体が人材育成制度を持っている強さは、何ものにも変えられないことではないでしょうか。日本でも、インターンシップのような制度はありますが、市民の手でだけで人を育てていくには、まだもう少し時間がかかりそうですね。