セブン-イレブン みどりの基金 一般財団法人セブン-イレブン記念財団

※こちらはアーカイブ記事です。

 ホームへ戻る

 

文字サイズ
活動のご紹介

「ドイツ環境なるほど紀行」 連載-第4回- パートナーシップの価値 〜GEO生物多様性の日〜

→バックナンバー

NPOで働いていると、様々な機関や団体と一緒に活動することが非常に多い。お互いの強みを生かし、双方にとってメリットのある協力関係をつくることによって、効率的に目的を達成できる・・・はずである。しかし、これは簡単なようでなかなか難しいものなのだ。例えばNPOと企業が組む場合は、意識あわせに時間がかかったり、お互いの意思決定のスピードが違ったり、活動が進むに従って目的がずれることだってある。またNPOの中立性を大切にするためにも、健全な距離や力関係を保つバランス感覚も重要だ。NPOの力量が試されるところである。

今回のドイツ研修中、訪問先の担当者が口をそろえて「パートナー」の重要性について語ってくれた。「活動を広げようと思うなら、よいパートナーをみつけることです」「アイデア、プラン、そして何をすべきかわかっているなら、パートナーを見つけなさい」と。なので、今回はドイツ滞在中に学んだ様々なパートナーシップのあり方の中でも、特に面白いと思った「GEO生物多様性の日」プロジェクトを紹介したい。

GEOはドイツで約50万部を発行しているドイツの代表的な自然科学雑誌である。雑誌を見た感じでは、生物や自然の写真が多く掲載された「ドイツ版ナショナルジオグラフィック」といった感じである。GEOは毎年、6月の第2土曜を「GEO生物多様性の日」とし、ドイツ中でおよそ1万人以上が参加する画期的なプロジェクトを実施しているという。生物多様性というと、なかなか市民の関心を集めにくいテーマだけに、1万人の参加と聞き、驚く。そしてお話を伺うトム・ミュラー氏は、そのプロジェクト運営をほぼ一人で行っているというから、只者ではない・・・。

海外研修
トム・ミュラー氏。北ドイツからわざわざ来てくださった
(写真提供:小野さん)

「生物多様性の日」は1年のうちのある1日を使って、自分の庭や身近な場所の生物多様性を調べてもらうプロジェクトである。調査といっても難しいものではなく、自分たちの身の回りにどんな生き物がいるのか、発見することだという。「単純なことですが、私たちは自分が理解していることだけを、守ることができるのです」とミュラー氏は言う。確かに、自分の家の裏で卵から孵ったコオロギなどの存在や、生態系の重要性を知らなければ、そもそもその場所を守ろうという気持ちは生まれないのかもしれない。

現在、地球上では70種以上が毎日絶滅していると言われている。「貴重な鳥や昆虫がいなくなっても私の生活にあまり関係ないのでは?」と私たちは思いがちだが、すべての生物は互いにつながり支えあっている。種の絶滅は生態系の崩壊を意味し、ドミノ倒しのように人間を含む全ての生物に影響を及ぼすのだ。ミュラー氏がジェーン・グドールさん(国連平和大使)に会われたときに、ジェーンさんはこう言われたという。「大切なのは、自然の中にでて、感じること、さわること、ふれあうこと」と。GEOの「生物多様性の日」には、こんな大切な意味があるのだ。

さて「GEO生物多様性の日」プロジェクトの具体的な活動内容だが、主に「地域プロジェクト」と「メインプロジェクト」の2つに分かれる。

「地域プロジェクト」は、現在ドイツ全土で380グループが、それぞれの地域で参加している。幼稚園生から大人、NPOや学校など、誰でもインターネットで参加登録し、見つけた種類をネットで報告したり、撮った写真をアップしたり、体験記を書いたり、様々な形で参加できる。インターネットを活用しているからこそ、これだけの規模のマネージメントをミュラー氏ひとりでできるのだ。私の所属する団体でも、インターネット上で環境家計簿を記入するキャンペーンを展開しているが、少ない人数と資金で多くの人へ効率的にリーチする方法としてインターネットは欠かせないツールである。

海外研修 海外研修 海外研修
生物多様性をグループに分かれて説明
(写真提供:小野さん)

熱心にメモを取る研修生
(写真提供:小野さん)
1999年の調査地。ドイツのアマゾンと呼ばれる森
(写真提供:阪本さん)
一方、「メインプロジェクト」では市民が興味関心を持ちそうなテーマと調査地域を選び、その調査地域は毎年変更している。そして面白いのが調査地域だけでなく、パートナーをも毎年変えているということだ。たとえば、2004年はオーストリアとの国境付近の山で「山を越える生物多様性の変化」をテーマとして実施し、その時のパートナーは、チロル地域の行政に決定した。また2001年にはデューツブルグという工業地域で、「廃止された工場跡地に自分たちの力で復元する生態系」をテーマとし、パートナーはその工業地域の広報を担っている会社を選んだそうだ。他の年のパートナーには、BUND(ドイツ環境保護団体)、連邦自然保護局、スイス自然博物館など。いったい、どういう基準でパートナーを選んでいるのだろうか?

海外研修
ミュラー氏と記念写真
(写真提供:小野さん)

「パートナーには、開催場所と目的に対して、最も影響力をもっている企業、行政、学校などを選んでいます。同じ目的を共有し、共にプロジェクトを進めていければ、企業でもNPOでも、特に条件はありません。」つまり、開催場所がスイスの山であれば、その地域において広報面で最も影響力のあるパートナーを選ぶということだ。そしてもっと言うならば、毎回パートナーを変えることで、パートナーの広報先やリソースをもどんどん吸収して増やしていける。これだけの大きなキャンペーンを毎年継続的に成功させているのは、GEOが雑誌として持つ広報力もさながら、やはり良いパートナーを持ち、毎年変化を加えて、参加者や市民を飽きさせずにきた、というのが秘訣だろう。

ドイツでNPOは、企業や行政の対等なパートナーである。ドイツの小中学校が半日制から全日制への移行するにあたっても、BUND(ドイツ環境保護連盟)はパートナーとして認定を受け、学校の中へ入り込んでいる。日本のNPOも企業や行政の対等なパートナーとして、社会のニーズを満たせる日が来るのは、そう遠くない未来ではないかと思う。




このページの先頭へ
ご利用にあたってプライバシーポリシー
Copyright(C) 2000-2019 Seven-Eleven Foundation All Rights Reserved.