1. 日本のボランティアリーダーとして生かせること
(1) ドイツにおける資金調達のノウハウ ドイツでは、環境に関わる分野で活動する非営利団体の資金調達について、民間企業と同じように顧客獲得のための戦略、最低限のコストで最大の効果を得るための分析、営業・広報の技術といったノウハウを研究し、それを提供する専門家、ファンドレイザーが存在する。規模の大小を問わず、現在の日本の非営利団体において、そうした民間企業並の経営感覚を持ち、実践しているところはごく少数であろう。 以下、ドイツの環境団体で実際にどのようなことが行われているか、具体的に紹介したい。
① お願い文の書き方、パンフレットの作り方 活動に必要な資金源として、会費、助成金、寄付金といった非課税のもの、さらに業務受注、販売、資金の運用といった課税対象となる収益事業が存在する。その中の寄付獲得の手法について、赤十字、ドイツ自然保護連盟(NABU)、国境なき医師団、さらには緑の党などの資金調達に関わってきたハンズ・ヨーゼフ・ヘーニッヒ氏(現:ファンドレージングアカデミー講師)の経験に基づいて説明するが、それは他の資金調達の方法、さらには団体のあり方自体を再確認する上で非常に参考になるものと考えられる。
寄付をお願いする場合に、効率の良い手段はダイレクトメールの送付である。ダイレクトメールの場合は、「誰が」、「誰に」、「何をお願いしたいのか」を簡潔に、かつ明瞭に示すことが大切である。熱意を持って、正確に伝えたいと思う余り、文章は冗長になりがちであるが、長い文章は誰も読まない。その際、差出人のサインの後に、最も伝えたいメッセージを1文で添える、という手法も使われている。 また、こちらの意図をわかりやすく伝えるために、パンフレットを同封することも行われる。だが、そのパンフレットは、自分達の活動の全てを詰め込んだ、とにかく文字がいっぱいのものになっていないだろうか。パンフレットも、それを使う目的、対象によって適切なものを作成しなければならない。多すぎる情報は、何を伝えようとしているのか曖昧にしてしまう。高齢者にとって、小さな文字は非常に読みづらい。人々の注意を引くためには、絵や写真を多く使用し、センスのあるデザインにしなければならない。人々の中に潜在している、「社会に貢献したい」という思いを現実化するためには、その障壁となっている要素を丹念に取り除いてやることが必要である。例えば、手紙やパンフレットによって、自分たちが何をしようとしているのかという意図を好運にも伝えることができたなら、寄付する金額を選んで、サインをするだけで余計な手間をかけさせないようにすることも大切な配慮の一つである。(金額を自由に決めさせることも、いくら寄付をすればいいかわからないという心理的な障壁を作ってしまうことがある。金額を選択させる場合には、人は真ん中の選択肢を選ぶ傾向があるので、こちらが想定している金額を真ん中に置くというテクニックも存在する。) 寄付をしようという決断をさせるためには、こちらが何をしようとしているのかをはっきりと、さらに印象に残る形で伝えるとともに、寄付することでどのようなメリットがあるのかを明示することが有効である。寄付した者だけが得られる優越感、満足感、社会的地位は、寄付という行為を起こさせる大きな要因となる。社会を良くするための一翼を担っているのだ、ということがはっきりと認識できること、それに付随する周囲からの評価等、様々な特権を得ることになしに、すんなりとお金を出してくれることはほぼないだろう。また、寄付金額によってメリットを差別化することも、より多くの寄付を得るために使われる手法の一つである。実際に寄付をした人の写真や言葉をパンフレットに掲載することも良く行われている。 ここでしっかりと気に留めておかなければならないのは、世の中には様々な団体がいて、みな資金の調達に躍起になっているということである。自分の団体と他の団体との違いをはっきりさせなければければならない。そのためには、自分たちの固有の価値がどんなものか、もう一度自分たちで掘り下げ、確認する作業を行われなければならないだろう。
② コンタクト先の集め方 ダイレクトメールを送るにしても、その宛先をどのようにして集めたらいいのだろうか。 非営利目的の団体も、企業の顧客リストに対する考え方と同様のアプローチをとるべきである。まず、会員のデータは最も大切なものである。さらに広報活動を通じて、自分たちの活動に興味・関心を持ってくれた人達のデータは、できる限り積極的に集めておかなければならない。「問い合わせ」という、非常に自発的な形でコンタクトをとってきてくれた人が自分たいちの活動を支援してくれる可能性は非常に高い。自分たちのリストだけではなくても、ネットワークを活かして別の団体が持つリストを利用させてもらうという手段もあるだろう。また、比較的情報が集めやすいツールとして、インターネットがある。個人情報保護法に違反するようなことはいけないが、様々な機会を通してコンタクト先を集めようという姿勢が大切である。
③ 顔の見える関係の構築 寄付をお願いするときに、プロジェクトの担当者が表に出てこないことが多い。組織の代表者ではなく、あえて担当者の顔写真を(ジェンダーバランスに配慮しながら)パンフレットに掲載することも、寄付をしてくれる人と顔の見える関係を構築する上で有効な手段である。寄付の決断だけではなく、寄付を継続するかしないかは、人間同士の温かい関係がきちんと構築されているかどうかが大きな決め手となってくるからである。 活動状況や成果を逐次報告し、お金が役に立っていることが示されなければ、継続的な支援は望めない。プロジェクトの現場を支援者に見てもらうためのツアーの企画などもドイツでは行われている。費用は参加者が全て負担し、そのツアーに参加できることが、多額の寄付をした場合のメリットの一つとなっている。プロジェクトの内容をよく理解してもらい、そのプロジェクトのファンもしくは親のような気持ちになってもらうためである。 また、多額の寄付を行ってくれている人への対応が非常に重要視されている。これは、少数である多額の寄付者の寄付金が、寄付金総額のほとんどを占めているからである。(統計的には、8%の人間で、寄付金総額の90%を占めていると言われている。)そして、継続的な支援を求めることは、新規の支援先を発掘するよりもコストがかからないからである。多額の寄付者だけが参加できるイベントやパーティを開催することで、寄付していることの誇りや満足感を涵養しながら、彼らに直接会い、彼らの意見を聞くことによって信頼関係を構築しているのである。前述のツアーの事例で、ツアー中、参加者の写真をたくさん撮っておき、後日参加費用の請求とともにその写真を送ったところ、自分の遺産の一部をプロジェクトに寄付するという遺言が残されたそうである。
④ もっと身近に感じてもらうために 寄付をお願いしようと思っても、そのプロジェクトが解決しようとしている問題が、人々にとって関心がなければ、その人たちから寄付を受けることは難しい。お金だけでなく、一緒に活動する仲間を集めたい、国民的な運動へと展開したいと考えても、必要な支援や参加を得ることは困難である。人々の関心を喚起するために広報に力を入れることが必要になってくる。 自分達の伝えたいことをシンプルに明快に伝えること、印象的なものであること等、①で述べた注意点は、効果的な広報手法においても同様のことが言える。積極的なプレスリリースや無料掲載の広告等、マス・メディアを有効に活用しなければならない。広告の掲載先も、単に環境分野の媒体だけではなく、資金力のありそうな人々が購買層となっている経済専門誌を選択するなど、目的に応じてどこが最適なのかを検討し、選択を行わなければならない。ここでも、自分たちが何をしようとしているのか明確にする必要が出てくる。そして、活動の広がりのために、どのような分野の人々と連携するのがより効果的なのかという視点を持つことも重要になってくるだろう。 アイフェル国立公園支援協会で行われている“ボツシャフトラー(情報発信者)”育成プロジェクトは、情報発信に関するボランティアの専門家を育てるもので、教育を受けたボランティアが公園の周辺地域でセミナーや講演会、展示などの広報活動を展開している。そこでは、少数の精鋭が育てられており、活動を行った場合には交通費+1日20ユーロが支援協会から支払われている。このように、人手の足りない事務局のスタッフだけではなく、情報発信に特化して、団体の会員などの中から専門的な知識を備えた人間に広報を任せてしまうのも効率的な広報の方法と考えられる。 また、皮肉なことであるが、災害や事故によって環境や生命に深刻な被害がもたらされ、人々の関心が集まっているときこそが、その分野で活動している団体が認知されたり、支援を求めやすくなる絶好の機会であることを十分に認識しておかなければならない。
⑤ 資金獲得の手段について 団体の収入のうち、会費の占める割合が高ければ、自立性・柔軟性・即応性を持ってプロジェクトの実施を行うことができる。会員数40万人を抱えるドイツ最大の環境団体であるドイツ自然保護連盟(NABU)とドイツ環境保護連盟(BUND)は、会員獲得の活動の一部を外部の専門家に委託することで大きな成果を残している。受託しているのは、共にオーストリアの会社で、専門の教育を施された学生が、各家々を訪問し、勧誘を行っている。ドイツにおいても戸別訪問という手法が好意的に受け止められているわけではないが、その学生たちが優秀なためか、大きな問題にはなっていないようである。また、NABUでは入会した会員の会費のうち最初の約2年分が委託会社に支払われ、それ以降が純粋な会費収入となる仕組みとなっている。会費は、毎年銀行口座から自動的に引き落とされている。なお、寄付を継続的に受ける仕組みとして、プロジェクト里親制度が存在している。 また、遺産の一部を非営利団体等に寄付することが、ドイツではよく行われている。NABUやBUNDにおいても、それらが収入に占める割合及び金額は見過ごすごとができない程に大きい。今回研修の舞台となったノルトライン=ヴェストファーレン州(NRW州)では、1990年当時、遺産の相続人がいないため、州に収められた遺産の金額は、8,000万ドイツマルク(約4,000万ユーロ)であった。日本で遺産の一部をターゲットとして、寄付の依頼をすることに心理的な抵抗感があると考えられるが、価値ある活動への寄付を求めるのであれば、決して誤った行動ではないだろう。先を越されれば貴重な機会を逃してしまうだけのことである。NABUでは、高齢者の特徴をよく把握した上で、パンフレットが作成されていた。
⑥ 少ないコストで最大の効果を得るために ダイレクトメールによって寄付をお願いする場合、少ないコストで最大の効果を得る方法は、顧客リストの情報を分析し、その属性によって対象を絞りこむことである。また、収入・支出に関わるあらゆるデータを蓄積、分析することで、今自分達の団体がどういう状態にあるのか、何をしなければならないかが見えてくるだろう。そうしたデータを分析するためのソフトウェアがドイツには存在している。複雑な条件でも、様々なデータの相関関係をグラフによって、一目で理解することができるものであった。 ⑦ 事務局機能の共有 財政規模の小さな団体にとって、これまで述べてきた方法は、コスト面の理由から容易に行動に移せないと考えられるものも多い。しかし、自分達を見つめ直すこと、データを分析すること、効果的に情報を発信することなしに、資金を調達することは非常に難しい。リスクを回避できるように慎重に検討を重ね、投資を行えば大きな発展が可能となる。そこで、他の団体と連携することでコスト下げるという方法が考えられる。具体的には、印刷物であれば、部数や発行頻度が増えることで価格交渉が可能であるし、ファンドレイザー(資金調達の専門家)や資金調達用のソフトウェアを共有することで費用負担を少なくできるだろう。ドイツのハム市内にある、小規模な市民団体のネットワーク組織である「環境と公正な発展フォーラム」(FUGE)では、窓口、会議スペース、コピー機、メーリングリストの共有、FUGEの名でのプレスリリース等により、単独の団体では成し遂げられない活動を実現していた。また、FUGEでは、環境問題、原子力発電所の問題、平和、人権等、それぞれ別個の活動を行う団体がネットワークされており、個々の活動が相互に連携し合って、より総合的に社会の改善のための運動が行われている。
(2) 若い世代の人材育成 これからの社会を支える若い世代が社会性や環境に対する理解を身につけなければ、社会は持続可能なものになっていかないだろう。しかし、日本、ドイツともに若者の幼児化が進んでいると言われている。自分のやりたいことをすぐに見つけられない若者も多い。 ドイツでは、福祉分野での人材育成制度から発展して、環境ボランティア研修制度が、連邦法及び州法による法制化のもと実施されており、大学入学前の16〜26才の青年、1,800人以上が毎年その制度を利用している。(1,800名程度が定員であり、希望者はその約4倍いる。)NRW州は2つの行政地域に分けられているが、そのうちケルンを中心とする地域では、環境保護、自然保護に関わる様々な団体や農家等で、主に野外の仕事を手伝う形で1年間研修を受けることができる。この制度は、学校卒業後の進路を決めかねていたり、一度体を動かしながら社会を体験してみたいと考えている青年たちの居場所を提供している。受け入れ団体への応募は、希望する青年達が自らコンタクトを取るシステムとなっており、その時点から社会性を身につける研修が始まっていると言える。また、年5回開催されるセミナーを通じて、他の研修生との情報交換も行われており、お互いの刺激となっている。なお、この制度を利用した若者達は、社会からは好意的に評価されている。
受け入れ団体においても、研修に来ている青年達から毎年新しい刺激を受けることで、様々な面で活動が活性化するとともに、若者たち自身のアイデアで行われたプロジェクトによってメディアの関心を集めることができること、さらには長期的に見て、受け入れ団体の良き理解者であり、支援者となってもらえる等のメリットがある。ただし、研修生のお小遣いを含め、一人あたり6,000ユーロ程度の経費のほとんどは州政府から支払われているが、600〜1,000ユーロ程度は受け入れ団体が負担しなければならないこと、また、青年たちの指導・教育のために大きなエネルギーが必要となるという側面もある。 しかしながら、こうした制度を通して、環境問題や自然保護と接点のなかった人間が、自然とそうしたことに関心を持つようになり、そのような人間が増えていくことは、将来的に非常に重要なことであろう。日本においても、法的な位置づけ、コスト負担の問題を解決する必要があるが、1年間程度の期間であれば、青年と受け入れ団体双方にとって得るものは大きいのではないだろうか。
2. 日本の環境ボランティアリーダーを支援するために、どんな仕組みが考えられるか。
(1) 情報共有の場 ドイツにおいては、民間企業に非常に近い形で経営が行われている。そうした様々な先進的な取り組みについて知る機会が開かれていることで、そこから自分たちの活動を展開させていく上での様々ヒントを得ることができると考えられる。また、日本国内でそれぞれの団体も試行錯誤しながら作り上げた、画期的な取り組みや参考となる取り組みが存在している。 そこで、そうした資金調達や人材育成、広報などの面で実践されている様々な事例を知り、そのノウハウを共有できる場が作られることが必要であると考える。コストが比較的かからず、情報共有が技術的に容易な点から、そうした情報共有のプラットフォームとなるウェブサイトの構築を検討してはどうだろうか。インターネット上で、ある程度の研修や議論も可能であり、そこを中心に必要があれば、具体的なセミナーやそれぞれが集まる場をそれぞれが設けていくというものである。
(2) 法制度へのアプローチ ドイツにおいては、行政の開発プロジェクトについて、その計画段階から環境に関する市民団体、特にNABUやBUNDといった団体からアドバイスを受けなければならないこと、さらに行政がそのアドバイスに従わない場合は、それらの市民団体が訴訟を起こすことができることが、法律で定められている。また、先述の環境ボランティア研修制度も法律で定められているものである。 ここが制度的な面での日本との大きな違いであり、ドイツの環境保護市民団体が社会的に大きな存在感を示していること、また活動を行いやすい状況にある要因の一つである。この権利は、一方的に与えられたものではなく、ドイツの環境保護市民団体がそうした権利の獲得のために努力を続けた結果であり、また、多くの市民の声がそれらの団体を通して、政策として反映された結果でもある。 中央集権型と言われる日本と地方分権型と言われるドイツという国家制度の相違もあり、日本の環境問題に関わる市民団体は強くなることができなかった。しかし、環境は持続可能な社会を構築するために、あらゆる点で必要な視点であり、日本においても多くの市民が潜在的に環境問題を不安に思っている。その不安をきちんと政策へ反映できるよう、環境問題に関わる市民団体が成長し、ある意味で民主主義を補完する役目を担わなければならない。そして、そうすることによって、より良い仕組みづくりに関わっていける力を自ら身につけていくことも必要である。 ドイツでは、ロトくじの収益金の一部がNPO団体への助成金として配分されており、日本でもそうした制度の導入が検討されるべきであろう。
3. 全体を通しての感想
一日リーダーという役割を与えられる中で、号令を明確にすること、時間に対するコスト意識を持つこと、嫌なことでも楽しくやること、他人を理解したいという思いを強く持つことの大切さを学ぶことができ良かった。また、研修を通して、何をどう変えるべきか考えるときに、歴史と自分たちの現状を十分に把握しておく必要があると感じた。 反省点として、ドイツへ渡航する前に研修する内容について事前に勉強しておけば良かったという点、自分の活動をごくごく簡潔に説明できる準備をしておくべきだったという点が挙げられる。
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