私が今回、研修の目的としていたことは、主に「人材育成」、「マネジメント」、「組織運営」について学び、それらの手法を習得して日本で実践へと展開していくことにありました。ただ、ドイツに来るまで、これらの言葉については自分の置かれている環境と照らし合わせ解釈していました。そのため、ドイツで学び始めてからドイツの人々と私の感覚にいくつかの解離があることを気付かされました。そこで、ドイツの各団体の活動から学んだことを日本と関連づける前に、私の感覚とドイツの方々との距離を埋めるため、私が違和感を覚えた部分について紹介したいと思います。
●トップダウンか、ボトムアップか?
日本では民主的な普通選挙が行われ、市民の代表者となった長や議員が、国レベル、地域レベルの法律を定め、市民はそれらに従い生活をしています。しかし、どういうわけか日本では、市民の手で選ばれた代表によって定められたはずの法律や制度が、政府からの押し付け(トップダウン)と捉えられてしまうケースが見受けられます。ここには、意見を言っても実現しないのではないかというある種の諦めから、受け身に回ってしまう日本の市民の特徴が現れているのかもしれません。一方、ドイツでは、日本と同じく市民の手で選ばれた代表が法律を定めていたのですが、自分たちが連邦、州、地域の制度を定めているという一人一人の意識を強く感じました。自分たちが決めているという主体性(権利の主張)を見ることができました。この雰囲気は、国政だけでなく、NABEやBUNDを始めとする市民活動でもみられましたが、この背景の一つには、ドイツの幼児教育があると考えられました。例えば、研修の中で事例として出てきた「森の幼稚園」では、3〜6歳という子どもであっても合意を図る際には多数決によってみんなの意見をまとめているとのことでした。このように小さな頃から、民主主義に触れ、意見を主張するよう育てられた結果、ドイツでは「ボトムアップ」という視点が、ごく当たり前に存在していました。例えば、NABEやBUNDといった市民団体の組織図をみると図の一番上に市民がおり、その下に地域のグループや州のグループが位置づけられていました。そして、市民団体の方々は、自分たちが「提案する」ということを非常に意識していました。また、「提案」すれば、社会を変えることができるという実現可能性が、市民団体の中には共有されているようでした。
●ドイツ社会の中のボランティア
日本とドイツの違いの一つとして、ボランティアを取り巻く社会的背景があげられます。ドイツでいうボランティアとは、「自由意志の下で働く人」を指していることが今回の研修で分かりました。つまり、有償か無償か、会員か非会員かという部分は関係なく、自分の意志で行動している人こそがボイランティアとのことでした。そして、そのボランティアによる活動が、ドイツ社会で普及している背景として、まず、18歳以上の男性に対する兵役の義務があげられます。この兵役については拒否する制度もあり、社会への奉仕的な活動をすることで兵役を代替することができるようになっています。つまり、兵役を拒否した場合、法律で規定された成年の義務としてボランティア活動が生まれる仕組みがありました。さらに、2001年の法改正によって、兵役を代替する事業の中に環境的な活動も組み込まれていました。また、日本の中学生〜大学生にあたる若者に対して、教育プログラムの一環として社会活動が組み込まれていました。さらに、ドイツでは、失業者に対するキャリアアップ制度として、ボランティア活動が重要な役割を果たしていました。このように、ドイツでは、ボランティア活動への違和感がなく、ボランティアを受入れる土壌が確実に存在していました。
●市民団体と政治の関係性
私は、日本の市民団体と「政治」が関係する機会はまだまだ多くないと感じています。これは、市民団体が政治家に直接働きかけるロビー活動が、ごく一部の市民団体でしか行われていない実態からも伺い知ることができます。しかし、ドイツでは、連邦レベルの活動を行なっているグループはもちろんのこと、州レベル、地域レベルで活動を行なっているグループでも「政治」をとても重視しており、「政治」に積極的にアプローチをしていました。「政治」へのアプローチを行なうことで、自分たちの提案を具体化し、プロジェクトを実行し、自分たちの目指す社会を実現するという目的を達成しようとしていました。そして、小さな団体も、大きな団体も、社会的なビジョン(使命)を持って活動しているということを強い印象を受けました。
「政治」へのアプローチの方法は、戦略をもって行われていました。「数」を意識した会員獲得や、プロジェクトを受けるだけの技術をみにつけ、技術をあげる努力がなされていました。
以上のように日本とドイツには、価値観や風土が異なる面があると考えられます。しかし、その違いを踏まえた上で、ドイツから学ぶべきところが数多くあることを今回の研修の中で、各訪問団体から教えられました。そこで、研修で学んだことを、日本で生かせると考えられる部分に注目して整理したいと思います。
- 人を育てるために、リーダーの姿を「見せる」という行動を大切にする。
- 育成したい明確な人物像がある場合には、マニュアルを用意しておくことで、自信を持って人材育成事業ができる。また、育成事業そのものだけでなく、人が育ち続けることの出来る環境を用意することが効果的である。
- 必要が生じた時に対処するだけでなく、先を見越した「仕掛け」も重要である。子どもの頃から市民活動に違和感を持たないシステムを作っておくなど。
- 人材育成制度の技術的な面も重要であるが、やはり人と人との関係を重視しておくこと。例えば、ボランティア活動の一種であるFÖJの制度では、実施側と、参加者側の両方から「フォロー」というキーワードが出てきていた。
- 総事業費がいくらあるかが重要なのではなく、全体のごく一部でも確実に組織の運営基盤となる資金源を持つこと。
- 資金がゼロの状態から事業をスタートさせるのではなく、最低ラインの資金源(事業を遂行できるという裏付け)を確保した上で、さらなる資金の獲得を目指すことが重要。説得される要素がなければ、人は動かない(寄付をくれない)。
- お金ではなく、提供してもらった「時間(労働)」も寄付とみる視点を持つこと。
- 故人の遺産などに目を向けるなど、新しいマーケットに挑む姿勢。
- 平和の維持、貧困の解決など漠然としたテーマでなく、具体的な効果を求めている人に対し具体的なアプローチをすること。そのために、常に情報をキャッチすること。
- 「ガラス張りの部屋の中」にいることを意識すること。NPOはとにかく透明性を確保しなければ、信頼されないし、寄付も頂けない。
- 寄付者のフォローの方法として、寄付したお金がいつ、どこで、どのように使われたか常に確認できるようにしておくこと。
- 「必要」な人や物を具体的にして呼びかけること。私たちにとってあなたが必要ですと呼びかけることも効果的である。
- イベント時の寄付募集などは、ポイントとなるものを用意し、参加者に印象づけること。
- イベントでの寄付募集の後など、成果の検証を必ず行なうこと。
- 寄付活動も、最終的には人と人のつながりによって成り立っていることを忘れない。
- 会員一人一人が、所属団体の目的、目標、ミッションを語れることが団体の説得力(強さ)につながる。ドイツの市民団体の持つ強さは、数に加えて、自分たちの目的、目標、ミッションを皆が理解した上で取り組んでいることにある。
- 理念を訴えることも大切だが、理念を実行できる技術、行政や企業を納得させることのできる技術を持つこと。
- 一度離れたスタッフが戻ってくることのできる組織内の環境づくりが、組織の継続には必要であること。
- スタッフのメンテナンスも重要なポイント。スタッフ内での合意形成を行なうための(事業以外での)時間を意識的に使うこと。
- 年間スケジュール、月別スケジュールなどを明記すること。ミッションが具体的になり、意識を共有できる。また、会員の獲得にも効果的につなげることができる。
- ハードルの低い入口を用意しておくことが、幅広い層の獲得と団体への親近感につながる。
私が、今回のドイツ研修を通じて日本の環境ボランティアリーダーにとって必要だと感じたポイントは下記の4点です。
- 日本の環境ボランティアの課題を共有できる場
- 資金を獲得できる人、ボランティアを獲得できる人、専門知識を獲得できる人など環境ボランティア組織にとって必要な人材を育む場
- 人と人、地域と人、地域と地域をつなぐコーディネーターを育む場
- 環境ボランティアの中間的支援を行なえる組織の充実
これは、抽象的な応えかもしれません。しかし、何かが必要と感じた時に、それを待つのか、自ら用意するのかでは大きな違いがあると思います。課題を発見したら、リーダーが動くこと。それが日本全体への支援につながると今回の研修を通じて、強く感じました。
全体を通しての感想
環境先進国といわれるドイツですが、今回の研修を通じて、日本の市民団体との差は僅かしかないと確信することができました。確かに、BUNDやNABUのように大規模な市民団体は日本にはありません。しかし、規模が異なるだけで、BUNDやNABUで行われていることは、日本の市民団体と変わりありません。差が出ているとするなら、連邦、州、地域といった活動の規模に関らず、明確なビジョンを持っていること、それに対する課題を整理できていること、そして、達成できた成果を確実に公表し次につなげている部分ではないでしょうか。また、日本を出る前には、ドイツの制度を羨ましく思うこともありましたが、制度を作るのも全て「人」であることを改めて確認することができました。どれも基本的なことだと思います。あとは、やるかやらないか。そこが日本とドイツの差につながっているのだと、今回の研修で実感することができました。そして、全国から集まってきたリーダー達から、悩み、考え、目標などを聞くことができたことも、私にとって非常に大きな収穫でした。私は、普段和歌山県を中心として活動しておりますが、ドイツで得ることのできた情報、視点などを地域で普及させると同時に、今回の研修で各地のリーダー達と取り組んだ対話を、地域に帰っても心がけていきたいと思っています。
最後になりましたが、今回の研修を企画して下さった、セブン-イレブンみどりの基金様、基金にご協力下さいました全国の皆さま、そして、全国で活動されているボランティアの皆様に感謝を述べさせて頂きまして、研修の報告を終わりたいと思います。本当にありがとうございました。先ずは、和歌山県を一歩前に進めるために、これからも頑張っていきます。