私は今回の研修に、特別自主参加として参加をさせていただき、「企業とNPOの連携」について学ぶことを目標としていました。なかなか自分の持つ課題の本質に辿りつけないまま、焦りを感じながらの研修でしたが、このレポートを書くことで、少しずつ整理ができてきました。
以下、テーマごとにご報告します。
1.環境教育について
「環境教育」というテーマは、当社社員に環境に目を向けてもらい、活動に参加してもらいたいという使命を担っている私にとっては、非常に興味深いテーマでした。ドイツにおける環境教育は、人格形成の初期の時期より始ります。今回の研修ではその中で「森のようちえん」について学びました。森のようちえんは、通常の幼稚園とは違い、教室や校舎はなく、森の中で過ごす幼稚園です。子どもたちは、森という自然空間の中で、自由に遊びを見つけます。教室のように区切られたスペースではないので、森から得られる気づきや学びも多いということを、教師のモニカさんより伺いました。実際に雨であろうと晴れていようと子どもたちが生き生きと遊んでいる姿に、私自身が幸せな気持ちになれましたし、こういう森の空間がいつまでもあってほしいと、自然に思いを寄せることができました。
ドイツの人々にとっての「環境教育」とは、自然に触れ合うことによって、自然への畏怖を学び、自然の神秘の魅力に気づき、人間と同じように生息する動植物への愛情を育むことで、最終的には「人格の成長」を目指しています。しかし、私自身が子どもの姿を目の当たりにしたときに森を思う心が生まれたように、会社職場のCSR活動とはいえ、家族参加型の活動によって、まず社員の子どもたちに環境教育を目的にした自然との触れ合いの場を作り、その子の親である社員に少しでも次世代のための良い社会を残すための活動に興味・関心をもってもらえるように、導いていかなければならないと思いました。
2.活動により多くの人を巻き込むためのしくみ作り
ドイツでは、市民に環境に対して興味を持ってもらったり、活動参加してもらうしくみがありました。
マインツ市の環境整備局では、一般家庭のごみの分別・回収のしくみに工夫が凝らされていて、リサイクル等のできる資源ごみ(紙・ビン・土に還る生ごみ等)以外の一般ごみは回収ボックスの容量を超える分は有料となるそうです。また、ごみ排出量の削減対策については、(1)ごみ袋の市民への配布拠点をあえて少なくする(配布は、市の環境情報センターのほか、小さな文具店やお花屋さんなどマインツ市内に20拠点)、(2)ごみ回収の回数を減らす(都市部が1週間に一度、郊外になると2週間に一度)などが行われており、敢えて市民の利便性に制限をかけ、市民の生活を変えることで、環境に意識のない人にも、環境負荷の削減に協力してもらるしくみになっていました。
また、リサイクルできるペットボトルやビンには、ラベルにマークがついていて、飲料の売価には容器代が含まれており、スーパー等でペットボトル等を返却すると、1本につき容器代分25セントの買い物ができるチケットが発行されるしくみがありました。実際に研修期間中に数回、スーパーに行ったときに、ケースごとビンやペットボトルを返却する若者の姿を多く見ることができ、私自身も容器が空になるたびに捨てずにとっておき、スーパーに返却に行きました。このしくみのよくできている点は、(1)メーカーや飲料の種類にかかわらず、容器の規格がすべて共通のものであること(製造メーカー企業間の連携)(2)スーパー、道路のサービスエリアなどあらゆるところで回収のための自販機のような機械が置かれていること(流通企業間の連携)です。
私の今後の活動としてまだ具体的なことが浮かばないのですが、普通の人が普通に無理なくこうした環境活動に参加できるしくみ作りという点では、当社単独で進めるもの、行政や同業他社、グループ企業、その他の企業、さらにはNPOと連携することで社員や不特定多数のお客さまに対して、社会インフラとしてのATMを使った環境負荷削減のしくみができないものか、今後検討していきたいと思いました。
3.広報活動
マインツ市環境情報センターは、ごみ袋の配布拠点にすることで、年間4万人もの市民が立ち寄る拠点となっており、そこで環境に関する情報発信を行うことで、環境に関するあらゆる情報を市民に提供し、情報センターとしての役割を果たそうとしています。
街を歩いていても、「ECO TEST」という環境をテーマにした製品テストの結果が掲載されている雑誌が発売されていたり、環境配慮商品だけを扱ったスーパーマーケットがあったりと、市民の生活のすぐそばに、環境に関する情報がたくさんありました。
また、今回の研修では多くのNPOを訪問しましたが、3つの団体が「遠く日本から環境問題について私たちの活動を学びにきた」というニュース素材をマスコミに提供し、記者が私たちの訪問について取材にきていました。そのうちの1つ「Naturnahe grun」は本職を別に持って活動しているボランティア(無給)15人だけで構成されているという草の根活動を行う小さな団体ですが、そこを訪れた時の記事掲載をドイツ滞在中に確認することができました。記事は写真付きで比較的大きく、ドイツ語を読める研修仲間のバードさんによると、私たちのことは2〜3行で、残りはこのNPO団体の活動内容についての紹介文だったそうです。そして記事の終わりには、彼らの連絡先とURLが記されており、私たちの研修をうまく取材のきっかけとして使い、彼らのPR活動の一端を担がされたという印象を受けました。彼らのような小さな団体が、不特定多数の市民が読む媒体への広告でなく記事として活動を掲載されるということは、費用対効果という意味でも広報効果は非常に大きいものと思われます。
活動の内容を市民に伝えるという点で、いろいろなところで、情報発信がされているということに関心しました。
4.リーダー像
今回お会いした訪問先のみなさんは共通していて「強い信念に基づいて、明るくて、いつも楽しそうに」活動をされていました。何人かの方に「活動は楽しいですか?」と問うと、必ず「Ja!(はい!)」と即答されました。その理由としては、「同じ信念をもった仲間に出会えるから」。
NABUランダウ支部のベルナーさんは、36年間も支部長を務められているのですが、私たちがお話を伺ったのは、ドイツの統一記念日である祭日で、本来ならば休日だった日でしたが、快く私たちを迎え、長時間にわたりお話を聞かせていただきました。また、ランチはベルナーさんの仲間の方々と、コーラスでロシアに行った時の写真などを見せていただきながら、アットホームな雰囲気の中でいただきました。ベルナーさんの人柄の好さに、同じ志を持つ仲間が自然に集まってきたのだと思います。
NABUラウンランドファルツ州広報担当のミシャルスキーさんの言葉に印象的なものがありました。「ほがらかな笑顔は人を寄せつける」。同じ信念の仲間に出会えるのも、リーダーの人柄あってのことだと思いました。
私たちも研修中、研修生5人で当番制でリーダーを務めました。タイムマネジメント、訪問先での相手の話したいことと自分たちの知りたいことの調整、さらには、5人の質問や意見の調整など、私にとっては、慣れないことばかりで、信念もなく、「楽しい」という雰囲気を作ることができず、ディスカッションを盛り上げることができないまま1日を過ごしてしまい、落ち込んだこともありました。短い期間のリーダーでしたが、そんな体験からも、今回の研修で出会った方々のリーダーとしての姿勢に学ぶものがありました。
5.組織・人材育成
ドイツ最大の環境活動団体であるNABUもBUNDも、組織形態が似ていて、連邦—州—群—市—地域」というように、行政レベルに応じて団体が分かれていました。これは、各団体の意見を行政に働きかけるロビー活動のためです。また、その各レベルの団体の中でも、広報担当、経理担当、ビオトープ専門家など、まるで企業の部署のように、担当がしっかり分れていて、例えば、広報担当の方に年間予算の規模や支出の内訳、収入源の内訳など担当外の質問をすると「わからない」という答えが返ってきたりして驚きました。
ドイツではスペシャリストを採用するので、担当者はその道専門として自分の担当の範囲内のことを徹底的に行うが、それ以外は行わないとのことでした。そのため、人材育成ということを組織内では行っていません。職に就くには、自分で能力を高め、専門職になって就職をするということでした。(FOJは人格の成長と生態学的感性を発展させる機会という目的もあるので、人材育成の役割を担っている制度ということになると思います)
行政レベル階層で各団体が割り当てられた役割をきちんと果たしていく、また、その団体の中で、個人が自分の役割を責任をもって果たしていくからこそ、強い組織になり、強いネットワークが生まれるのだと思いました。これは、ドイツのNPOの話だけでなく、日本の企業にも当てはまると思います。日本社会における当社の位置づけ・役割、各部門の役割、そこで働く従業員一人一人の役割を認識し、企業の社会的責任が果たせる会社になるようにしていきたいと思います。
6.企業とNPOとの連携
今回の研修の私のメインテーマでした。「なにかしなければならない」と目に見えるものばかりを探していました。だからこそ、訪問する先々で「企業との連携事例」や「助成金以外での企業からの活動に対する人的支援などありますか」など、質問をしてきたのですが、方向性が間違っていたことにようやく気づきました。連携をするには、共通の目標を持つこと、それに向けて互いの持っている物を持ち寄ることだったのだと、そんな当たり前のことに気づきました。
前述したNaturnahe grunは、「在来種の保護と市民への啓発」という目標に向けて、土地をマインツ市(行政)が提供し、企業が材料費を、NABUが植物の苗を、BUNDが活動PRのための小屋に掲示するパネルや小屋の骨組みを、そして地域の子どもたち(市民)が小屋の組み立ての労力を提供し、15人のスタッフは、月に数回公園を訪れて最低限の作業をすることで、「自然公園」ができていました。Naturnahe grunは、NABUにもBUNDにも所属しているわけでなく、活動を組織的に広げたいという思いがあるわけでもなく、純粋に目標に向けて、各方面からの協力を受けて、地道に活動をしていますが、今の日本のNPOはこのような団体が多いのだそうです。
企業として、多種多様にある環境問題のどの問題に取り組んでいくのかを、日本に帰国後考え、同じ志を持つNPOに声をかけて、あるべき連携の姿を探りたいと思います。
7.最後に
この10日間は、体力的にもきつかったのですが、訪問先で聞くお話も、一緒に研修を受けた仲間から聞く話もほとんどが初めての話で、とても新鮮で刺激的で気づきの多い研修でした。幸運にも、今回の研修では仲間に恵まれ、悩みのわからない私の悩みに夜遅くまで付き合って話をしてくれたり、足りない知識に対して何度もフォローをしてくれたり、理解が遅れがちの私をみんなで助けてくれました。バードさん、菊地さん、今村さん、榎本さんという4人の仲間には感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。事務局の小野さん、野崎さんには、毎晩のようにみんなと話し合いをするための背中を強く押していただきました。ありがとうございました。
以上を、今回の環境ボランティアリーダー海外研修の全体報告とさせていただきます。