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【1】10月2日(木)午前 「ボイムリンゲ」森のようちえん |
訪問先:「ボイムリンゲ」森のようちえん(Die Bäumlinge Waldkindergarten)/ラインラント‐プファルツ州マインツ・ビンゲン郡ブーデンハイム(Rheinland-Pfalz State, Mainz-Bingen District, Budenheim) 対応者:モニカ ムンチさん(幼稚園教諭) Monica Muench
HP:http://www.waldkindergarten-mainz.de/
「ボイムリンゲ」森のようちえん(Die Bäumlinge Waldkindergarten)を訪問しました。この幼稚園は、マインツ・ビンゲンの親たちの強い要望により、2004年に認可された幼稚園です。多くの森のようちえんは親のニーズにより設立されるため、親が自分たちで教師や保育士を見つけ、必要な申請書類を行政に提出し、設立されます。子ども最大20人(現在在籍は16人)に対し教師2人がつき、朝9時〜12時30分(最長13時30分)を森の中で過ごします。毎朝、「今日はどこの森の広場で遊ぶか」を投票で子どもたち自身が決めます。万が一、投票結果が同数になり行き先が決まらない場合は、再投票となり、決まるまで延々と投票は続けられます。こんな小さな頃から、子どもたちは、民主主義を身を持って経験していくことになるのです。幼稚園や教師によるとのことですが、「ボイムリンゲ森のようちえん」では子どもたちにプログラムはありません。ルールは「枝などの棒を持って走らない」などいくつかの最低限のことだけです。大人の目では何の変哲もない森の小さな広場で、子どもたちは元気いっぱい自由に遊んでいました。よほどのことがない限り、教師は子どもたちに注意することはなく、ただ子どもと遊び、見守るだけでした。
教師のモニカさんに聞いたこの幼稚園のコンセプトは以下の通りです。
【自主性】子どもたちが自分の身の回りに起こっていることを発見すること
【対人関係】友達とどう接するのかという社会性・協調性を身につけること
【対自然関係】動植物とどう接するべきかを知り、自然に対し畏敬の念をもつこと
幼児期に自然の中で成長することにより、大人になっても森を理解し、自然保護の心が培われていることが期待されています。
研修の反省会で「森のようちえんは、環境教育ではなく、人間性を養う初期教育だ」との発言もありました。まさにその通りだと思います。自然を愛し、自然と共生していくことは、心の豊かさにつながり、そんな心の豊かな人間を増やすことが、社会問題解決につながるものと信じています。 (宮里知江)
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【2】10月2日(木)午後 蝶の博物館
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訪問先:蝶の博物館/ラインラント‐プファルツ州バート・クロイツナハ郡バート・ゾーベルンハイム(Rheinland-Pfalz State, Bad Kreuznach District, Bad Sobernheim)
対応者:ザビーネ ヤコブさん(BUND職員 ラインランドファルツ州自然保護員(環境・自然保護担当))Sabine Yacoub
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エントランスの建物
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マインツ市郊外約60km南西のバート ゾーベルンハイム(Bad Sobernheim)というところにある「蝶の博物館」を訪問しました。「蝶の博物館」といっても、実際に蝶が標本で展示されているわけでも、蝶がたくさん飼われているわけでもありません。そこは蝶の保護を大きな目的にした、森とドイツの昔の村の家屋が点在するラインラント‐プファルツ州の昔の暮らしを再現したテーマパークに近いものでした。森があり、池があり、庭がある自然環境負荷の低い昔の暮らしは、蝶が住める環境である、というのが大きなテーマとなっています。
ザビーネ ヤコブさん
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ドイツ最大の環境保護団体BUNDの職員で、ラインラント‐プファルツ州の自然保護員(環境・自然保護担当)のサビーネ ヤコブ(Sabine Yacoub)さんの案内で、蝶の博物館を歩きました。彼女の仕事は、市民の問い合わせ応対、公共の場所での講演、キャンペーンなどです。ただ、蝶の保護を訴えるパンフレットを作っても、誰も見てくれないという考えから、歩きながら蝶のことを学ぶ「蝶の小道(15個のステーションが置いている蝶の学習効果が期待)」とういう散策路が2008年の4月に完成しました。「蝶の小道」には、自然環境財団とBUNDの協力で作られたステーションと呼ばれるポイントがあり、子どもや若い人たちに興味を持ってもらうように、蝶に関する説明プレートを置くなどの工夫がしてあります。ステーションの設置は2、3週間前ですが、よくいたずらされて壊されるそうです。また入り口脇のハーブ園の管理は、協賛企業がCSRとして行っているそうです。もちろん看板等に企業名が入っています。移築家屋が40棟ありますが、もう10棟増える予定だそうです。またワインやジャムを売っている地産地消ショップもありました。環境と文化の融合している施設、場所があるということが非常に新鮮でした。
「蝶の絶滅→環境の変化が原因→生活や文化の変化が起因→生活スタイルの見直し」 という流れを感じてもらう施設でした。
「市民の環境に対する意識は変わってきているのか」という質問に、「まだまだだ。変えるのはとても難しい。市民にはなかなか変化が見られない」とヤコブさんが話していたのが印象的で、ドイツも日本も同じ問題を抱えており、さまざまなアプローチをしていることがわかった訪問でした。
(菊地格夫)
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【3】10月3日(金)午前 NABUランダウ支部
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訪問先:NABUランダウ支部 NABU Landau /ラインラント‐プファルツ州ランダウ市(Rheinland-Pfalz State, Landau Urban district)
対応者:ヴェルナー ケルン氏(ランダウ支部代表)Werner Kern
NABUのラインラント‐プファルツ州ランダウ市支部代表のヴェルナー氏(Werner Kern)を訪問しました。羊飼いが住んでいた家を改装してつくられた事務所は、公民館のように青少年が集まり、学び、作業をするセンターの役目を目指し作られました。5人の職員が働いており、日頃の活動は、メールを使ってボランティアを募集しています。事業は、子どもへの環境学習や、ワインやジュースを販売することがあげられます。私たちも取り入れられたらいいと感じたのは、前年の時点で次の年の事業計画が一日のタイムスケジュールまで決まっており、参加者が参加しやすい工夫がなされていました。
ドイツには、罰金が寄付されるという日本にはない制度があります。これは、環境汚染者が裁判の判決で負訴となり罰金が科せられた場合、裁判官の判断で環境汚染者に対して直接環境団体に罰金を支払うように命じる独特なドイツの制度です。罰金を寄付された団体は、罰金の入金確認やその使途を裁判所に報告しなければならないそうです。
この地域はぶどうやりんごなどの栽培が盛んで、この日は無農薬のりんごの収穫に、現地のスタッフの皆さんと一緒に参加させていただきました。スタッフの皆さんも、私たちもとても楽しく作業をすることができ、普段楽しく活動している様子を垣間みることができました。
今回特に心に残ったことは、何よりも30年以上支部長を努めているヴェルナー氏の人柄のよさと、地域の活動をまとめ先導していくマネージメント能力の高さが、この地域の環境ボランティア活動の成功の源だと感じさせられたことでした。
(榎本純子) |
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【4】10月3日(金)午後 シラー公園、ゲーテ公園と自然オリンピック
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訪問先:シラー公園、ゲーテ公園と自然オリンピック(Natur-Olympiade)/ラインラント‐プファルツ州ランダウ市(Rheinland-Pfalz State, Landau Urban district)
対応者:フランク へッツアー氏(ランダウ市都市緑化計画事務所前ディレクター)Hetzer/クリップナー氏(BUNDランダウ支部職員)Krippner
午後からはランダウ市にある都市公園、シラー公園(2.05ha)とゲーテ公園(5.8ha)を訪問しました。シラー公園とゲーテ公園は隣接しており、城塞都市ランダウの城砦部分を撤去した跡地につくられました。これらの公園について説明をしてくれたのは元ランダウ市都市緑化計画局のフランク へッツアー氏。ドイツにおける都市公園の始まりの様相をよく示したこれらの公園はガーデンショウの跡地に整備されたものだそうです。
最後に、公園の敷地内で開催されている子どもたちへの環境教育をテーマにしたブース出展型のイベント"自然オリンピック(Natur-Olympiade)"を訪れました。自然オリンピック(Natur-Olympiade )は年1回開催されており、ブースには地域で環境保護や環境教育に関わっている12団体が協力して出展しているそうです。休日のため会場にはたくさんの親子連れが参加していました。展示内容は自然をテーマにしたパズルや人力発電などの体験型が中心で、日本のイベントと比較しても大きな違いは見られませんでした。展示ブースにはランダウ市周辺に拠点を置くBUNDも出展しており、事務局のクリップナー氏にイベントに参加する意義を尋ねてみました。すると"インディアンの哲学"の中からこんな言葉を紹介してくれました、「私たちの7代後の世代が生活できるように根気よく続けていくことが大切なのです」と。
(今村和志)
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【5】10月4日(土)午後 環境学習センター ※午前中は反省会
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訪問先:環境学習センター/ヘッセン州マイン‐タウヌス郡フローシュハイム(Hessen State, Main-Taunus District, Florsheim am Main)
対応者:マルティナ テイペルさん(GRKW社職員、ANUヘッセン州代表)Martina Teipel
今回の訪問先は、30年前に閉鎖された採石場の跡地につくられた環境学習センターです。以前は、採石場の再生についての法律がなく、採石場の跡地には多くの不法投棄がありました。現在は、採石場跡地の再生が義務化されているそうです。以前、採石場跡地の自然を再生するために、市民と政治家が共同参加でデモをしました。この地方は自然に対する関心が高い場所で、1980年、数名の政治家が立ち上がり、再生計画を決定しました。この再生計画はドイツ国内でも珍しい事例で、1980年に市長の推薦でGRKW社を、いくつかの町の合資会社として設立し、その後民営化されて独立運営しています。この施設は、三つの異なる特徴を持つゾーンから構成され、一部は立入禁止の自然保護地区で、もう一つのゾーンはビオトープを含む大きな自然再生区域兼自然学習ゾーンとして整備され、残りのゾーンは現在も採石場として使用され、環境学習拠点および収入源となっています。1991年、敷地の一角に子どもや家族などを対象とした数名のスタッフが運営する自然環境学習センターも併設されています。
(デワンカー・バート・ジュリエン)
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【6】10月5日(日)午前 自然保護センター
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訪問先:自然保護センター(NaturschutzZentrum)/ヘッセン州ベルクシュトラーセ郡ベンスハイム(Hessen State, Bergstraße District, Bensheim)
対応者:ゲルハルト エプラー氏(自然保護センター所長、NABUヘッセン州支部代表)Gerhard Eppler
対応してくれたエプラー氏、本職は環境評議員、生物学者。自然保護センター所長、NABUヘッセン支部代表は無給のボランティア(名誉職)だそうです。この自然保護センターとNABUの関係はなく、センターの目的は子どもたちに自然を知ってもらうことだそうです。それは以下の2つの考えに基づいています。
(1)小さいうちから自然を知ってもらうことにより、動物たちをどう保護するのかを学ぶため
(2)お金より自然が大切だと心で感じるため
センターの周囲の自然保護地域と山岳街道の一部、約3000km2の地域がユネスコのGEOPARKの指定を受けて保護されています。2000年にこの自然保護センター建設のアイデアをエプラー氏が持っており、2004年には開館できたそうです。エプラー氏は、「自然保護は教育が大事であり、それは子どもだけでなく先生にも大切なことだ。また、環境保護は楽しさがないとできない。そのため、このセンターは歩くだけで何かを見つけられるようになっている。見つける楽しさがある」と説明してくれました。
入り口の石畳は再利用の石材を敷き詰めており、また石と石の間は隙間があり、その土の部分に雨が浸透できるようになっています。このようにしている理由はいくつかあり、まず地域で取れた材料であること、再利用石材なので安価であること、地質学的に観察することができることがあげられます。この施設は高気密高断熱の建物で、ソーラー発電、木質ペレットストーブを備え、断熱材が30〜40cmの厚さで外断熱しています。建物そのものが低いエネルギーで使用できるようになっており、屋上緑化や地域の木材を使用した造りになっています。壁や屋根の軒下部分には人工的に穴があけられ、鳥やこうもりが住処になるように配慮されています。穴の中にはカメラが入れてあり、環境教育で観察に使うことが出来るようになっています。
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センター周辺には、有機栽培のぶどう、野菜の畑があり、子どもたちの食育に使われています。好き嫌いがあった子どもたちも、1週間野菜の栽培を手伝うと、そこで育てた野菜を使った料理はまったく残さなくなり、驚いたという話もしてくれました。採石場の跡地だったこともあり、大きな人口湖と池があり、魚や水生動物の観察場所として人工的に岸辺が設置されています。大きな長方形の花崗岩を縦に斜めに設置し表層部を研磨しツルツルにした石の滑り台があり、枯れた大きな木を置くことで生物の住処にするエコスタックなどもあります。窓ガラスには鳥避けが設置され、人工的な蜂の住めるスペースもあり、各種ハーブが植えられ、触って嗅いで五感で理解できるようになっています。
内部の展示物の工夫も素晴らしく、一つ一つがテーマを持って作られています。また、この一つ一つの展示物はキャスターで可動式になっており、空間を自在に変えることができ、環境科学大学との連携も行っているそうです。
このセンターが開館するときの式典でエプラーさんはムール貝の貝殻を持ってきてこう挨拶したそうです。「この施設はこの貝殻と同じです。そしてこの中身を作る仕事は私の仕事です」
しかし、館内の一部に水銀灯や白熱灯のアップライトが使われており、また太陽光パネルは予備電源にもならないような小さなものしか設置されておりませんでした。環境への配慮を徹底した施設というよりは、生物学者であるエプラー氏が情熱を持ってつくった生物多様性を感じるための設備の充実した「生物多様性を学べる低エネルギー施設」と言ったほうが適当だと思います。エプラーさんの環境教育というものへの使命感と、ドイツに来てから随所で感じるドイツの人の共通意識のような感覚、遠くにあるが常に意識をしている大きな目標「未来の世代のために」のために活動している、ということを感じる訪問でした。
(菊地格夫) |
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【7】10月5日(日)午後 NABUヘッセン州支部
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訪問先:NABU ヘッセン州支部/ヘッセン州ベルクシュトラーセ郡ベンスハイム(Hessen State, Bergstraße District, Bensheim)
対応者:ゲルハルト エプラー氏(NABUヘッセン州支部代表、自然保護センター所長)Gerhard Eppler
有機栽培のぶどう
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この日お会いしたのはドイツの代表的な環境保護団体「NABU」のヘッセン州代表エプラー氏。NABUは1898年設立され、ヘッセン州のNABUは1908年に設立されました。現在、ヘッセン州の政治は混迷中で、州知事はまだ決定しません。日本と同様に、選挙が近くなると各政党とも政策に盛り込むために環境問題に興味を示すようになります。NABUは、知事(与党)がどこになってもいいように、活動については、全ての政党にアピールをします。たとえば、南ドイツの高速鉄道路線計画については、高速鉄道が及ぼす影響を市民に知らせ、政治家に働きかけるなどのロビー活動を行っています。だからといって、行政とは決して対立的な関係というわけではありません。州の40%を覆う森の中の州所有の森林については、保護に努める一方で国立公園化し、その土地で経済活動が行われるようにしました。また、このようなロビー活動のほかに、一般市民に向けた環境啓発活動も行っています。「コウモリが家にすみついて困る」といった相談に関しては、コウモリのすめる家であること(環境面で優れていること)の素晴らしさを教え、その家をコウモリ指定住居として認定します。そうすることで、市民も動物と共存をすることを理解するようになるのです。コウモリ指定住居は現在420か所にもなりました。
今回の研修でお話を伺った中では、NABUの組織形態について生の声で教えていただくことはできませんでしたが、NABUは、自然保護という目的達成のために行政区分と相対する組織体系になっています。NABUの各地域の代表が、NABU○○州としてまとまって声をあげ、行政レベルに働きかけをすることで、行政との連携を実現しています。
(宮里知江) |
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