1. 訪問団体の活動やマネジメントなど、どの部分を日本のボランティアリーダーとして生かせるか。
私は、四国で「四国青年NGO HOPE」という若者の社会貢献活動を支援、ネットワークする団体、松山のNPO中間支援組織「まつやまNPOサポートセンター」の運営に携わっている。今回は両組織に携わる中で人材育成、行政との協働、ファンドレイジングに課題を感じ研修に参加した。参加後、以下のような認識、考え方を得ることができた。
1.組織の基盤整備となること
1−1 育てるべき人材は「専門家」
スタッフの人材育成や組織図、収支報告書の見せ方などの組織基盤は日本のNPOから見ると、企業的であると思えるところが多々あった。
- 広報戦略〜NPO側から攻めるプレスリリース〜
NPOでイベントやプロジェクトを行う際、メディアに対して取材依頼のプレスリリースを行うこと。メディアに取り上げられることで活動に対する社会の信用度がアップする効果がある。訪問先でももちろんプレスリリースを行っていたが、もし取り上げられなかった場合、NPO側から原稿を作成し再度アプローチをかけることまでするようだ。 - “お金を集める”ということについての考え
会員獲得への考え方が日本のNPOとは大きく違っていたように感じた。訪問したドイツのNPO団体であるNABUでは寄付金獲得のための戸別訪問に、学生をアルバイトとして雇っている。会員獲得に人を雇っていること自体が驚きであった。学生を雇うメリットとしては、短期間で雇える、フレッシュなイメージを持ってもらえるということ。会員の学生であることでNABUのこと自体もよく理解している。コミュニケーションの研修は実施をしながら教えていって、基本的にはOJTで習得していくようだ。
また、寄付金を集める際は、その後の管理がきちんとできていないとだめだと思った。でないと、寄付者に申し訳ないし、そもそも寄付は集まらない。自分たちの活動が、本当にいただいたお金(会費やイベント参加費)分のサービスや満足度があるのかをもう一度考えたい。どんなに組織が大きくなっても謙虚な気持ち、感謝の気持ちを忘れないでいたいと思った。 - ファンドレイジング〜データベースの重要性〜
会員や寄付をしてくれた人の情報をデータベース化し、きちんと把握することが大事だと思った。ドイツでは、一度寄付をいただいた人にのみ次回寄付の案内をしてよいという法律もあるようだ。 - 政策提言〜政策提言がゴール〜
BUNDの組織のゴールは、地域で活動し、その意見を州の政策につなげていくことであると全体を通じて感じた。NABUは、自然に関するエキスパートを育てたいというミッションが強かったと思う。お互いの組織の目指すところが大きく違うので巨大なNPOでも同じ組織に統合することなく、個々に独立して活動している。(協働のプロジェクトももちろんある。)BUNDは収入の80パーセントが会費である。会員はBUNDにお金を預けて、環境に関するよい空間をつくってもらいたい、政策決定にいい意見を出してもらいたいと思っている。BUNDはその期待に答えるべく、明確な数値を表してロビー活動を展開し、記者会見をするなどの報告をきちんと行っている。(環境大臣の話し合いは年間4〜5回など) - ミッションステイトメント〜会全体での共有〜
上記のような会でのゴールを全体で共有していること、運営側もそれを打ち出して広報していると感じた。 - スペシャリスト〜合言葉は、理事の中に専門家〜
今回訪問したドイツ最大の2大環境団体のNABU、BUNDともに理事は専門を持った人たちが揃っていた。活動内容に関わる分野の学者(今回は主に生物系)、弁護士などである。この効果は、団体の活動のクオリティが高まることであり、弁護士がいることによって裁判に関わる時にサポートできることがメリットである。 - 責任と信頼〜できることは精一杯する姿勢〜
NABUには、一般市民の方から「うちの庭にモグラが出たけど、どうしたらいい?」といった自然環境に関することについて問合せがあるようだ。そのような問合せについて、担当した方がすぐに分からなかったとしても、専門家である理事に聞いて返答したり、他の機関を紹介したりしている。一般の方が「自然に関することはNABUに聞こう」という信頼関係ができていた。何か問い合わせがあった場合は全力で返答し、できる限りのことをするということが一人ひとりから信頼を得ること、それが地域を巻き込めることに繋がるのだと思った。そのために団体自体の専門性を高めていくことが重要である。 - 企業との関わり〜協働相手の企業はパートナーであるという考え方〜
NABUで企業との協働の事例のお話を聞いて、“パートナー=苦楽を共にする仲間”という意識で活動されていることを感じた。実際に企業との協働プロジェクトを目で見て、その雰囲気と重要性を肌で感じた。その考えが根底にないと、同じ目標を持ちつつもお互いの利害を満たすことは不可能だと思った。
<例>- 手を組まない業種の企業(NABUの場合、原子力と石油関係)がはっきりしている
- 企業のやっていることを批判することと、一緒にプロジェクトを進めていくことは違う
- 競合他社であっても一緒にやることはある、そんなことは気にしていない
- 対話と人間的なつながりが重要である
1−2 地域
- ドイツの行政の方の働き方について
博士課程を取っている方など専門を持った人が行政の中で熱意を持って働いている。講師の熱意を持った話し方から、いかに地域に愛着をもっているか グローバルな視点で物事をみたり、考えたりしながらもローカルに、自分の地元を大切に、育ててもらった大切な場所を、大切にし続けることが大切であると感じた。
1−3 社会
- ドイツの政策決定プロセスや国会、審議会の関係
日本でいう国会と審議会(州知事の集まり、日本でいう県知事会)の関係が対等に議論を交わす仕組みである。国会と審議会が対等な立場で意見を渡り合わすことができるため、地域の意見が反映される。決定するには両者の合意が必要なため、時間がかかるというデメリットもある。 - 法で整備されているNPOへの支援
NPOの電話勧誘や寄付金について報告する義務や情報開示の義務が法律によって定まっている。逆に国によってNPOの活動が守られていることにつながる。 - 青年の活動が法律によって守られている
青年の活動に関して、ドイツの社会法で「自由な発想でやらなければならない」と規定されている。青年の活動が法律によって守られているのは、衝撃的だった。それだけ歴史があるということと、青年の活動も社会全体で認められているということだと思う。日本の青年活動の課題として、既存にあるNPOに参加すると主体的に活動できていないという課題がある。日本でもこういった法律が必要だと感じた。 - 国によってNPOと企業の協働が認められている
企業が労力の提供をすると、“証明書”が発行され、税金の控除がある。NPOと企業との協働が仕組みとして認められているということである。
1−4 人材育成
- 環境ボランティア研修制度
〜大学入学前、高校卒業後の1年間、ノーリスクで社会のことを知るチャンス〜- 研修→仕事という位置づけ
日本でいうインターンシップをイメージしていたが、受け入れ側も明確な仕事内容があって募集し、それに対して面接をして研修生を受け入れている点が衝撃的だった。地域や受け入れ側は人材を選べていて、研修生も自分はこの仕事をするという覚悟を持って参加できると思う。研修生もプロとして仕事をしていて、お話を伺った研修生の「私は毎日ここにくるのが楽しくて仕方がない」という言葉が印象的だった。 - 少しの自信とリスクの少ないチャンス
日本では、大学生の年齢1年という時間を費やして自分の好きなことをやってみることはすごく勇気がいる選択肢となる。就職できないのでは?といった心配がある。
ドイツと日本でそういった違いはあるが、研修生の彼女を見ているとそこまで日本人と違いはないのではないかと思う。研修に参加するときの少しの勇気、自信とそこにリスクの低いチャンスがあれば日本人だって同じようになれると思う。
- 研修→仕事という位置づけ
- 受け入れ側の教育的視点があるほどうまくいく。逆にないと、トラブルが起こる。
- 研修制度はほかにもあり、環境分野の研修もたくさんある選択肢の一つである。
- 研修生同士の横のつながり、縦のつながりが継続してある。縦のつながりがNPO法人となって活動をしている。
2.おもい
- NPOの理事は名誉職である
各専門分野の理事たちが団体にはそろっている。基本的に理事は名誉職という役職であり、自分の専門性をNPOで生かしていくという生き方が1つのステイタスとなっているように感じた。
2. 日本の環境ボランティアリーダーを支援するために、どんな仕組みが考えられるか
私の活動と関連していること、私自身にできることについて考えてみた。次世代の環境ボランティアリーダーを育成していくためのボトムアップの支援策について考えてみたいと思う。
「若者キュウガク応援活動」である。大学生が休学して1年間、地域やNPO、企業に入っていて職業体験をする。その間の必要経費についても援助したい。
ドイツで学んだ環境ボランティア研修制度の良いところは、若者が自分の興味のあることに対しチャレンジをしてみること、社会を知る機会であること、そしてその機会についてリスクが少ないような社会のシステムとなっていることである。1年という時間をかけたとしても就職に不利になったり、大学に入りにくくなったりしないのである。そこが日本との大きな違いであるように思う。
日本の問題点は、大学に入るまでに時間を使うこと、大学を休学することに対してリスク、心配事が大きいことだ。就職活動に不利となること、国立大学の場合、授業料は不要だが私立大学の場合は半額または全額授業料を払わなければならない。もちろんネガティブな気持ちでの休学ならまだしも、自分の人生をよりよく生きて生きたい、社会に貢献したいという若者ならば支援する制度が必要だと思う。
既存にある大学生が何かチャレンジしてみたいと思った時に利用するシステムとして、“インターンシップ”がある。短期的(1日〜1週間程度)なものから長期的(半年間や1年間)なものまで様々だが、長期になればなるほど参加する学生が私の地域では減少している。それは長期のインターンシップをすると学業や就職活動に影響を及ぼすからである。大学生の就職活動時期がだんだんと早まってきており、何かチャレンジしてみたいと思っても、リスクを感じ一歩踏み出せていない人が多いように感じる。
私自身が、大学4年生の1年間休学し、NPO活動をしてきた。NPOの中間支援組織で働いてみて、今まで知らなかった社会を知り、自分の適性や仕事に対する喜びを感じた。自分が働いたことで喜んでもらえた経験、一緒に働く人との人間関係、信頼関係の作り方、怒られて自信を失った経験は休学して初めて得られた経験であった。それを通じて、自分は何に喜びを感じる人間なのかを考えることができた。休学した1年間がなかったとすると、私の人生は違ったものになっていたと思う。将来を決めるための根拠となる経験や自信のないままに歩んでしまっていたと思う。
これからの日本の環境ボランティアリーダーとなる次世代の育成のために、若い世代が時間をかけてもやりたいことをできる、それを応援できる制度の提案をしたい。
3. 全体を通じての感想
海外研修が終わって今、本当に応募してよかったと思っています。ドイツ研修の中では、ドイツで地域を大切にする心を持って環活動される方、情熱を持って働いている行政の方の活動を目で見て、肌で感じ、直接お話を伺って、自分の活動に必要な事、すでにできている事、そして日本の環境活動全体に必要な事、今できていない事を考えることができました。学んだだけで終わることが決してないように今日から1つ1つカタチにしていきたいと思います。
この研修の情報を下さった方、応募作文や面接の相談に乗ってくださった方、面接をしてくださった方、研修生の中で一番経験の浅い私に鬼のようなサポートをしてくれた事務局の小野さん、支えてくれた4人の研修生のみなさん、そして資金である募金を下さった、1人1人の方に感謝したいです。たくさんの方の力をいただいて、研修で学ぶことができました。この感謝の気持ちをきちんとこれからの活動を通しての行動で伝えていきたいと思います。ありがとうございました。