※こちらはアーカイブ記事です。
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【1】
10月13日(水)午前
ラインランド・ファルツ州 州環境情報センター 所長 ローランド ホーン氏
ラインランド・ファルツ州環境情報センターは、環境省直轄の組織で、州単位での情報収集と発信、市町村や地域で活動する団体とのネットワーク構築などを行っている。
所長のローランド・ホーン氏からは、1971年ライン川の魚の大量死をきっかけに始まった環境保護の歴史と環境保護を行う時の考え方について学んだ。「大量の死んだ魚が川に浮いている」。自然破壊の状況が目に見える形になって初めて自然保護に関する市民の意識が高まり、法律の整備や、水質・大気汚染の防止など具体的なアクションが始まった。自然はある一定量までの負荷は受け止めてくれるが、その「境界」を超えると、自然のシステムは崩壊する。一度壊れると修復に大きなコストがかかることを一番痛みの伴う方法で、知らせてくれた事件であった。
このような歴史とホーン氏の活動経験から、自然保護を考える時の3つのポイントを教えてくれた。
効率的・効果的であるか
自然の法則に合っているか。自然と共生しているか
資源の活用を適正量に自制しているか
これらを認識して自然保護活動を実践することが、この自然を次世代に残すことにつながる。
(荒井 一洋)
【2】
10月13日(水)午後 ヘッセン州環境省
ヘッセン州環境省の大気保全・地球温暖化対策部門の責任者リュディガー・シュベア氏
フランクフルト市のエネルギー部門の責任者ウェルナー・ノエマン氏
研修1日目の午後は、「ドイツの環境政策」をテーマにヘッセン州環境省を訪問した。ここでは、ヘッセン州環境省の大気保全・地球温暖化対策部門の責任者であるリュディガー・シュベア氏と、フランクフルト市のエネルギー部門の責任者であるウェルナー・ノエマン氏から話をうかがった。
まず、リュディガー氏からは「ヘッセン州における気候保全政策」と題し、人口620万人のヘッセン州における環境政策についての取り組みを聞いたほか、州全体の25%である100人の市長と、各地域のCO
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を削減するために一緒にアクションしていこうとサインを交わしたことなどをうかがった。
ヘッセン州環境省での研修の様子
また、ウェルナー氏からは、「フランクフルト市の気候保全」をテーマに話をうかがった。フランクフルト市は大きな化学工場が2つ、大きな空港が1つあり、年間のCO
2
排出量は830万トンにもおよぶ。市では2030年までにCO
2
の排出を半減することを目標に掲げ、(1)効果的なエネルギー使用 (2)発電時の熱の有効利用 (3)新エネルギーの活用の3点について取り組んでいる。太陽熱だけで熱を保てるパッシブハウスの導入など、具体的な取り組みとそれらの結果について知ることができた。
(鳥羽和明)
【3】
10月14日(木)午前 ドイツ自然保護連盟(NABU)の、ラインランド・ファルツ州支部
事務所には、活動に関するたくさんのパンフ レットやポスターがあった
100年以上の歴史を持つ環境団体のドイツ自然保護連盟(NABU)の、ラインランド・ファルツ州支部を訪問した。滞在したホテルから歩いて10分ほどのビルの中に事務所がある。州代表のShuchさんがNABUの歴史や組織運営、活動について説明してくれた。会員はドイツ全体で45万人、州では3.3万人いるそうだ。州の人口の約0.8%がNABU会員ということになる。目標は人口の1%とのこと。
NABUは「自然保護」を目的に活動している。会員には、自然に関することはもちろん、弁護士や教師など様々な専門家が集まっている。NABUは最高の能力と知識を持ったスペシャリストの団体だ、とShuchさんは力強く言っていた。それだけに政治に対する大きな影響力を持っている。開発計画に対して、文書や公聴会等で意見を述べる権利を法律で与えられているのだ。この権利を持つのは州内でNABUを含め10団体だそうだ。もちろん、自然保護の見地から開発計画に中止を求めたとしても、すべてが受け入れられるわけではない。
鳥の鳴き声のするぬいぐるみなど、いろいろなNABUグッズをいただいた
州代表のSchuch氏を囲んで
その場合はどうするか。まず、新聞等メディアで反対意見を発信し、市民に情報を伝えることで政治へ影響を与える。それで事態が動かなければ、詳細な反対理由を明らかにして裁判を起こす。そして、それでもだめな場合は受け入れる、という。政治への影響ということでは、NABUの代表や会員の政治家が、環境大臣と公開討論をすることもあるという。多くの会員を持つNABUは、政治家が無視できない影響力を持っている。
(田中博子)
【4】
10月14日(木)午後 (有)ファンドレイジング研究所
午後からは、(有)ファンドレイジング研究所のヘルガ・シュナイダー氏から話をうかがった。ここでのテーマはずばり「ファンドレイジング」。日本語で言う「資金調達」である。この日の研修では、その中の「データベースファンドレイジング」という手法について学んだ。
データベースファンドレイジングについて学ぶ研修生
データベースファンドレイジングは、(1)寄付をさらにたくさんの人からもらえるように (2)さらに寄付学を増やし、長い期間寄付を継続してもらえるように (3)できるだけコストを抑え、自分の団体にお金が残るようにする、こういったことを目的に用いるひとつの手法である。
これは、よく言う「顧客管理」をきちんとデータベース化して行い、たとえば、「直近の寄付がいつか?」「これまでの寄付回数は?」「これまでの寄付金額累計は?」など、寄付者を分析することにより見込み層を絞り込むことができる仕組みである。実際の運用は専用ソフトを使い管理するもので、顧客情報を事細かに入力し、寄付者の属性や記念日情報などを管理し、効果的に寄付のお願いをしていく。
ファンドレイジング研究所のヘルガ・シュナイダー氏
ヘルガ・シュナイダー氏を囲んで
NPOにとっては、「年に1回5000円寄付する人よりも、毎月1000円自動引き落としで寄付する人のほうがはるかにいい」ことは確か。1回きりの寄付や、気が向いたときに寄付する程度の人を、いかに継続的に、できれば銀行口座からの自動引き落としで寄付をいただけるようになるか、そのためにとても大きなメリットのある手法だと感じた。
(鳥羽和明)
【5】
10月15日(金)午前 ドイツ環境保護連盟(BUND)バーテンブルグ州支部
この日はドイツの新幹線ICEの移動
BUNDは、NABUと並ぶドイツ最大の環境団体だ。この巨大組織の組織運営等について、バーデンブルグ州支部事務局長のFriessさんから、午前午後に渡ってじっくりと話を聞いた。
BUNDの会員はドイツ全体で48万人、バーデンブルグ州では8万人にのぼる。環境保護を目的に、自然や農業、エネルギー、交通など様々なテーマに取り組んでいる。BUNDの最も大きな役割は、これらのテーマに関する政治や経済の動きに常に監視の目を光らせ、問題を明らかにし、市民に伝えることだという。それが地域の環境を守ることにつながる。
そのためには、行政や企業とは距離を置く中立な立場でなくてはいけない。この役割を全うするためのポイントは、組織の収入の8割が会費であるということだ。行政からの補助金や、企業からの支援金を受けることなく、ほとんど自主財源で活動しているからこそ、どこからも影響を受けることなく、目的を達成することができるという。
州事務局長のFriess氏。細かい質問にも笑顔で丁寧に答えてくれた
BUNDの若手スタッフと一緒に昼食を取り交流した
活動を支える会員に対しては、会費をいくら、何に使ったかを常に明確に見せることも重要だ。今回見せてもらったBUNDの支出内訳は、「政治活動」「会員に関する活動」「会報」など、目的別に分類され、活動の内容と支出額が理解しやすいものだった。
この訪問では、組織が何を目的に活動するのかによって、確保するべき財源が決まってくること、そして支援者に常に活動や財務会計を明らかにするという説明責任を果たし続けることが継続的な活動を可能にすることを学んだ。
(田中博子)
【6】
10月15日(金)午後 ドイツ環境保護連盟(BUND)バーテンブルグ州支部
BUNDは会員費を自身の活動の経費を賄うものとしているため、会員を確保すべく、広報活動にも近年力をいれている。事例をあげると、BUNDが発行するすべての印刷物を利用して会員募集を呼び掛け、個人会員、家族会員、学生、法人などにわけてそれぞれ入会しやすい会員費を設定している。また、企業のごとくCI(コーポレート・アイデンティティ)の基準を定め、ロゴの使用にあたっては規則を決め、細心の注意を払っているという。さらには個別訪問して会員を勧誘する場合においても、専門の企業に外注するなど効率の良い方法を選択し、自身の各プロジェクトに関する活動そのものに注力できる様に配慮がされている。2011年春には、組織内に独自に会員募集に携わる職員をもつことも模索中であるとのことだ。
一方、寄付によるファンドレイジングにも力を入れており、一般的な寄付以外に遺産寄付や誕生日などの記念時に寄付をいただける様に様々な工夫を施し、高額寄付者や貢献度の高い会員に対しても、名誉会員とするなどの配慮も展開している。
また人材教育には、特に広報の重要性から近年メディアについての研修を独自に実践し、ロビー活動をはじめとする広報戦略にも力を注いでいる。常に中立的な意見を外部にむけて発信できることを守るためには、行政や企業との関係に対して適切な距離を保つことの重要性は、BUNDにとって生命線であることについても再認識できた。
BUNDバーデンブルク州事務局にて
BUND広報ツール
(橋爪慶介)
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