1. 訪問団体の活動やマネジメントなど、どの部分を日本のボランティアリーダーとして生かせるか。
研修を通じて重要だと感じたのは、データを集め分析しアプローチに活かしていることであった。企業であればマーケティングは当たり前のことであるが、日本の環境団体ではそこまでは徹底していないのではないか。非営利であっても自分達の活動に多くの参加者を望むのであれば、マーケティングをした上でアプローチするべきである。
- パンフレットにちょっとした問いかけを載せ、送付収集できるようにしている。
- データの分析など、専門家を活用している。
- 様々なデータをグラフ化、図化している。
- プロジェクト、テーマ毎の惹きつけるパンフレットの作成。
行政もNPOも広報には非常に力を入れていた。特にBUNDは支出の5割程度を広報やロビー活動に費やしているとのことであった。実際の事業に費用を使いがちであるが、多くの参加者・賛同者を集め、施策にまで影響を与えるためには有効であると感じた。
ドイツでも新聞離れは進んでいるそうだが、地域愛が強いため地元新聞などは効果があるようだ。新聞に掲載されるコツなどをいくつか教えてくれたが、記者とのコミュニケーションが一番効果的とのことであった。その他、いくら有名な団体でも記事が掲載されないことはあるので、同じプロジェクトでも切り口を変えて新鮮さを喪失させないという工夫も必要である。
ドイツでは、興味を惹きつける写真、インパクトのある写真を表紙やプレゼンに利用していると多々感じた。100行の文章も大切だが一瞬で人を捉える効果は写真の方が高いことは間違いない。
NABUもBUNDも1年間のイベント計画を策定し、リーフレットを配布している。支部の組織によっては年間300を越えるイベントをこなしているところもあった。
逆に言えば計画を立ててマネジメントをしないと実施できないし、収支計画にも影響を及ぼす。
計画を立てる事により、参加のしやすさを増し、メディアへの手配、フィードバックなどもでき、効率的に成果を得やすい。
環境団体の取組や活動を実施していくにあたり、クリエイティブなアイディアを実践していく事が大切であるし、参加者も主催者も面白いことをした方が継続性がある。
その際、“感動”や“スマイル”を呼び起こさせる演出ということも重要である。
多くの興味深いイベント実施しているプロジェクトマネジャーにアイディア出しのコツを聞いたところ、毎日スタッフとこまめなコミュニケーションを取るということであった。一人では限界があり、一人の後ろには何人もの繋がりやいろいろな経験や情報、そこから生まれるアイディアとブラッシュアップが大切である。
ドイツでも日本同様、補助金に頼る団体は多い。組織や活動を広げたい場合は会費や寄付で収入を支えなければ、自分達の理念を貫くのは難しい場面に直面する可能性もある事を認識すべきである。
資金調達をする場合は、自らが努力する事が大事であり、何もしていない相手にお金をくれる人はないという話に尤もだと思った。実現したいことに対して、資金計画を立て資金調達の努力をした上で、明確な使途と不足の金額を提示し、信頼を得ることが協力を得られるコツとのことであった。
面白かったのはキャピタルキャンペーンという手法で、ターゲットを決め1年間徹底的にリサーチをした上であらゆる人脈を使って寄付のアプローチをするというハイリスクハイリターンではあるが、ノーブレスオブリージュの概念がある国らしいと感じた。
心当たりのあるターゲットがいる場合は、日本らしいやり方で実践してみるのも悪くないのではないかと思った。
その他、寄付をお願いするのもタイミングが大切であり、記念日に焦点をあてる、データベースファンドレイジングの手法を使う事により効果的である。
多くの講義で言われた事は有力者を利用しなさいとのことであった。それは議員であったり、有名人であったり、著名な知識人でもいいのだろうが、日本は政治と民衆が近い関係ではない場合が多いし、いきなり有名人と知り合いになれるとも思えない。
しかし、議会や行政が立ち上げた公開型の委員会に参加することは出来る。通う事でアプローチの糸口がつかめるのではないか。また、ドイツ同様地域愛の強い日本であれば、地元出身の有名人にお願いする、また今ならTwitterやFacebookでつながる事も可能性がないわけではない。最初から無理だとあきらめずにチャレンジしてみる事も大切である。
ヘッセン州の環境省の方からの事例紹介で、企業のCO2排出削減量をまとめ、市町村に比較データを送り続けている環境団体があるとのこと。
また、書店へ行けばエコテストという雑誌が目立つ処に陳列されており、商品に対して環境配慮の比較が掲載されている。これは何冊もあり、いろいろな分野の特集が組まれ何冊も出版されていた。日本人も比較やランキングが好きな国民性を有しているので、日本でも実施するといいのではないか。
どの環境団体もミッションステートメントや理念を即座に答える事ができるが、心に持ち帰り支援してみようかなという言葉も必要ではないか。
日本においてはNABUやBUNDよりも過激で有名なグリーンピースであるが、その本部は最先端のシステムが設置された洗練されたオフィスとのことで、一見の価値ありとのことであった。そのグリーンピースには、こう書いてあるそうだ。
「あなたが鯨に生まれ変わった場合、グリーンピースに寄付をした事を感謝するでしょう」
またBUNDでは、“自分の住んでいる野原に施設を作られた時、ウサギはロビー活動もできないし、デモ行進もできないでしょ。”というフレーズを聞いた。
自分達の団体活動の必要性を訴える方法はいろいろとあるが、このように誰にでも伝わり、覚えてもらえるようなキャッチフレーズを掲げれば、自分には関係ないと思っている人達との間の敷居を低くすることが出来る。
2. 研修を通して、日本の環境ボランティアリーダーを支援するために、どのような仕組みが考えられるか?
ラインランド・ファルツ州の自然環境財団では自らがEUの援助金獲得に動いており、州内の大小の環境団体等への助成も行っている。
助成申請に締切はなく、随時受付しており審査が通らなかった場合でも、環境団体に対しコンサルティングを実施しているとのことであった。日本は締切が決まっている助成が殆んどであり、タイミングが悪ければ1年待たなければならず、不便である。
また、アドバイスとして費用対効果と財団の理念に適しているかどうかが大切とのことであり、これは日本でも同様だろうから意識しておくべきである。
NABUには青年部があり、26歳以下のメンバーで構成され予算をもらって活動している。内容は自主性に任せているが本部への報告義務が課せられている。
社会に出る前から組織での役割分担の認識、リーダーの実践、成功及び失敗の経験を積むことができる。また予算を与えることでコスト管理の感覚も身に付けることができる。
日本でも青年組織はあるがドイツに比べれば年齢の上限が高い組織が多いのではないだろうか。また青年組織を構成できるほど大きな環境団体も少ないと思われるので、ネットワークの中でそういった組織ができることが望ましい。
日本よりもはるかに寄付金文化が浸透しているドイツでは、小額の寄付が集めやすい仕組みが多々ある。
フランクフルト空港内には円筒形の大人程度の高さの募金箱がある。これはWWFのものであるが、換金できない小銭をどうせなら寄付するかと思わせるタイミングと場が絶妙なやり方であると思った。
また教会では、パイプオルガン修復のための募金コーナーがあり、現在いくら集まったかを大きく図示していた。
日本でも公共施設にこのような分かりやすい募金システムを設置してもいいのではないか。各環境団体が個別に集めたり、小さな団体では寄付を集めるのは大変だと思われる。こういった団体をいくつかまとめて募金対象にし、公平に配分することで援助し、NPOを日本にもっと認知させられるのではないだろうか。
寄付しやすい、認知しやすい“きっかけ”作りを進める事が必要である。
3. 全体を通しての感想。
今回の研修は初日にホーン氏の環境保全に対する熱意と哲学に感化されるところから始まり、中間には相当のインパクトのある現場にも最後はデータベースファンドレイジングや市内の取組を見つけ出すという実務で終わるという、美しい流れ、ストーリーを感じるプログラムであった。
どの講師も多忙の中、準備をしていろいろな事を教えていただけたのは環境を守りたいという気持ちは国境を越えて、同志であるということだろう。
ドイツの代表的な環境団体であるNABUもBUNDもビジョンがあり、多少の衰勢はあっても、今後も多くの人が共感し、ファンが増えていくことは間違いないと感じた。
訪れてみて分かったのは、ドイツは非常に地域愛の強い国であること、EUという大きな枠組みの中でリーダーシップを取らざるを得ないことなど、日本と似ている点が多くあり親近感を覚えると共に、いろいろと知った今では、環境先進国という点では日本の方が上ではないかと感じている。
今回の研修では何人もの講師の方々から3月11日の震災に対しても励ましの言葉をいただいた。“フクシマ”は世界に通じる言葉になり、今後環境のことに携わるにあたり切り離せない事実になったと感じた。
ドイツで何故原発の廃止が即座に決定されたかは、政治家の事情に寄るところが大きいようであり、BUNDでも自分達のデモが決定させたとは思わないとのことであった。
原発の廃止を決定した事で、どんなに大変でも再生可能エネルギーを始めとした先駆者にならざるを得ない道を選んだ、とキッパリと言っていたのが印象的であった。
ドイツ人は複数の環境団体の会員であったり、寄付をしている人も多く、実際に自分達が活動しなくても、自分達の想いを体現してくれる政治家や環境団体を支援する仕組みができていると感じた。
また、日本人以上に身近な自然を愛し、モッタイナイ精神を持ち続けているドイツを体感できて、日本が経済競争の中に置き忘れた環境保全に対する不変性がいかに重要であるかを思い起こした。
自分達が地球を破滅に導いていることを言い訳せずに正面から見据え、取り組む覚悟をし、責任を持って自ら実行しなければいけないと決意しました。
最後に今回貴重な経験をさせていただき、みどりの基金に募金をしていただいた多くの皆様、セブン−イレブン記念財団、研修をサポートしてくれた方々に深く感謝します。ありがとうございました。