ボランティア受入れ 九重の自然保護・保全

【モニタリングサイト1000里地調査】
ボランティアの皆さんとチョウ類調査を実施中

2022年11月12日(土)

九重ふるさと自然学校では、2018年度から環境省モニタリングサイト1000里地調査における「チョウ類調査」に取り組んでいます。
今シーズンもボランティアの皆さんと一緒に、調査を行いました。

高原の爽やかな風を感じながらの調査。大きな捕虫網で採集します

さて、日本には何種類のチョウがいるかご存知ですか。
国内では約240種、そのうち大分県で128種、そしてこの5年の調査で自然学校のフィールド「さとばる」には71種のチョウが生息していることが分かりました。

採集したら種類を判別して記録

チョウは、それぞれの成長段階で植物との関わりが深い昆虫です。
①幼虫は植物の葉を食べ、種類ごとに食べる植物(食草と呼びます)が異なります。
②成虫になると、花の蜜や樹液を吸います。
(*一部、アブラムシを食べる幼虫など例外もあります)
様々な種類の植物がある環境は、より多くの種類のチョウが生息しやすく、また、季節を追って様々な花が咲くため、貴重な食料庫と言えるでしょう。

キアゲハの幼虫はハナウドなどセリ科の植物を食べる
カシワの樹液を吸うルリタテハ
蜜を求めて多くのチョウが集まるウツボグサ。調査は春から秋まで実施。その都度、草木の花々に癒されます
梅雨頃に咲くカノコソウ。秋の七草オミナエシと同じ仲間です

さとばるは標高900mの冷涼な気候であるとともに、草原や湿地、雑木林、人工林、畑など様々な環境がまとまっています。
規模は小さくとも、多様な環境がある生態系があればそこに生育する植物も多種多彩。
周辺に広がる同じような生態系とのつながりも、70種を超えるチョウの貴重な生息地になっています。

【さとばるの代表的なチョウ①】
ハンカイソウで吸蜜するウラギンヒョウモン(中)とオオウラギンスジヒョウモン(左・右)
【さとばるの代表的なチョウ②】
クヌギの葉で羽を休めるムラサキシジミ

このように植物に依存している多くのチョウにとって、環境の変化は死活問題です。
例えば、草原が時とともに森に変化すれば、草原のスミレを食べるヒョウモンチョウの仲間は姿を消します。
森が開発によってなくなれば、クヌギなどの木に産卵するシジミチョウの仲間は世代を繋げられません。
つまり、チョウの生息状況を継続的に調べることで、調査地の環境変化が分かり、植生(植物の集まり)の状態を評価することができるのです。チョウは地域の自然の豊かさをはかる「ものさし」、環境指標の生きものの一つと言えるでしょう。
彼らを見守りながら、環境保全活動を進め、九重の自然を次世代へ繋げていきたいと思います。

求愛するツバメシジミ
九重の自然保護・保全

くじゅうの野焼き

2021年4月

今年も地域の方々を中心とした野焼き実行委員会によって、
くじゅうに春の訪れを告げる野焼きが行われました。
野焼きはかつて草原での牛の放牧が盛んだった頃、
春先に枯れた草原を焼くことで、病害虫の発生を防ぐとともに、
牛のエサである草の新芽の発育を促すために行われていました。
しかし、放牧の減少や人々のライフスタイルの変化
(生活にカヤなどの草原の植物を利用することが減った。)といった理由で、
いつしか一部の採草地などを除いて野焼きのされない場所が増えてきました。
野焼きには枯れたカヤなどを焼くことで新たな芽吹きを促すと同時に、
環境の樹林化を防ぐ効果があり、
良好な草原・湿原環境の保全のために欠かせない活動です。
草原・湿原が樹林化することが悪いわけではありませんが、
すべての草原・湿原が樹林化してしまっては、
草原を生息地としている動植物はいなくなってしまいます。
多様な生きものが生息するためには多様な環境が必要なのです。

坊ガツル湿原の野焼き
タデ原湿原の野焼き

今年は天候に恵まれず、予定日から1か月近く遅れてしまいましたが、
最終的にはすべての野焼きが無事終了し、
芽吹きを促す黒い大地が一面に広がりました。
これからも野焼きが継続的に実施できるよう、
九重ふるさと自然学校もできる限りの協力をしていきたいと思います。

野焼き後の黒い草原
九重の自然保護・保全

さとばるサロン野草部

2019年4月~10月

九重ふるさと自然学校のフィールド「さとばる」で、植物目録を作ること、植物と昆虫など生きもの間の関係を探ることを目的に、「さとばるサロン野草部」を立ち上げて活動を始めました。ちょっと大人の部活動です。

見つけては記録します

さとばるの散策路を歩きながら、花を咲かせている植物を記録していきます。またその花で吸蜜しているチョウなどがいれば記録を取ります。4月から10月の間毎月1回集まり、約2時間の野外活動です。

図鑑とにらめっこ

種名の分からない植物は持ち帰り、図鑑で調べます。葉の裏など細かい部分をルーペで見ながら識別する作業は根気がいります。

美しい花にご用心(クモが狙っています)
ママコナの花はアリが好き

2019年の活動で175種の植物とその花ごよみを記録することが出来ました。またチョウの好む植物だけでなく、様々な昆虫が集まるレストランのような植物、花に隠れて獲物を待つクモの存在など、生きもの同士の関係性にも迫ることが出来ました。

2019年最終回に参加頂いた部員の皆さん

2020年はテーマを変えて実施する予定です。生きもの好きな方、植物の名前を覚えたい方など大歓迎です。一緒に活動しませんか?

九重の自然保護・保全

チョウの保全活動

2019年6月~10月

九重ふるさと自然学校では、全国的にも縮小の一途をたどる草原や雑木林に生息するチョウ類の保全活動を行っています。
今年も2013年から継続している記録調査と、生息地周辺の外来植物の駆除を当校の活動フィールド「さとばる」で行いました。


調査は、春から秋にかけて、毎月1回程度決められたルートを歩きながらチョウを記録します。草原や雑木林の他にも、隣接する湿地や畑、小川沿いなど多様な環境を巡ります。

今年は専門家のご協力を得て実施し、これまで確認できていなかったチョウが4種も見つかりました
チョウは比較的低い場所にある花や葉にとまる印象ですが、実はこんなに高い場所にいることもあります

チョウは幼虫の時期に食べる植物が決まっています。モンシロチョウはキャベツなどのアブラナ科、キアゲハはミツバなどのセリ科といったものです。

ヒメアカタテハ。キク科のヨモギなどを食草とする

このようにチョウ類の調査をすると、幼虫が必要とする植物が分かり、その場所がどのような自然環境かを知ることができます。つまり、チョウを守ればその場所にすむそれ以外の動植物も含めた自然環境(生態系)を守ることにつながる、とも言えるのではないでしょうか。

今回、外来植物の駆除活動を行いましたが、その目的はチョウの幼虫のエサ環境を守るためのものです。

時折冷たい雨が降る中、ボランティアスタッフの皆さんとセイタカアワダチソウを引き抜きました

強い繁殖力を持つ外来植物は短期間で植生を変えてしまう恐れがあります。駆除することでもともといる在来の植物を守り、ひいてはチョウを守ることにもつながります。

いま日本には約240種類のチョウがいるとされ、そのうち約3割の69種が絶滅危惧種に指定されています。
特に草原にすむチョウは生息地の縮小で、その多くが絶滅の危機にあるといっても過言ではありません。

 

バチバチと音を立てて、激しく枯れ草が燃えていく

九重ふるさと自然学校では、地元の方の協力を得て、さとばるの草原環境を維持するために野焼きをしています。これから先の遠い未来に今と変わらないチョウの姿を見ることが、九重のふるさとの風景を守ることにつながるでしょう。

美しい草原

 

九重の自然保護・保全

さとばるの森林づくり

2018年10月7日(日)、11月17日(土)

 毎活動ごとに行ってきた、さとばるのチョウ調査も10月で終わり。この日はキタキチョウなど成虫で越冬するチョウや秋にも産卵するウラギンヒョウモンなど11種65個体が見られました。8月の調査と比べ種数は半減し、この時期になると、チョウの中にはすでに越冬状態に入ったものがいるようです。調査の後は、苗木づくりのためのドングリ拾いや森の生態系を支える野ネズミを観察しました。捕獲したアカネズミがドングリを食む様子や身体の特徴をじっくり見ることができました(捕獲は大分県の許可を受け実施)。

捕まえた!ウラギンヒョウモン
小さな雑木林にも多くのアカネズミがいることが判明

 続く、11月の活動では、冬を前に苗木の補植とシカやノウサギ等による食害を防ぐプラスチック製の筒を設置しました。冬になるとエサが少なくなり、雪から顔を出した冬芽はあっという間に食べられてしまいます。昨年に食べられた教訓からの予防策です。この日は雑木林の資源利用についても知ってもらおうと、シイタケの収獲やキノコ汁の試食、炭焼きに代わる花炭づくり等も行いました。

食害防止だけでなく、苗木の成長も助けます
アートな花炭。ニシキギの枝の美しさに惚れぼれ

 チョウを保全のシンボルに掲げるこの森林づくりは、生きものの保全だけではなく、里山の資源循環も担っています。一年、一年が楽しみです。
※この活動は、「平成30年度大分県森林環境税」を活用して実施しています。