私たちがドイツ研修に行った際に降り立った空港、それはフランクフルト空港だ。日本の成田空港などとは違い、全体的に照明は暗め、窓ガラスが壁に大きく広がり、昼間は自然光がたくさん入るよう設計されている空港だ。しかしこれはフランクフルト空港だけに言えることではない。ドイツでは当たり前のことなのである。
ドイツでは当たり前のことと言えば、気候保全やエネルギーに関しての政策についてもそうだ。CO2排出量についてもエネルギー使用量についても、「削減」が当たり前。日本はどうだろう? 「増加前提」で「増加率を下げる」程度の話にはなっていないか。
今回は、フランクフルト市における気候保全、エネルギー政策について書こうと思う。ドイツの中でも特に商業面で主要都市として位置づけられているフランクフルト市が、どのような政策を行っているのか。研修の中で学んできたことを紹介していきたい。
私たちにフランクフルト市の気候保全とエネルギー政策について話してくれたのは、ウェルナー・ノエマン氏。どうやったらエネルギー消費を削減できるかを専門に考えているエネルギー専門担当官だ。彼がフランクフルト市での現状について、私たちに解説してくれた。
2030年までにCO2の排出量を50%削減することが目標
研修の様子
気候保全という言葉がまだ一般的になるよりも前の1990年。20年以上も前のこの年、他の市はまだ気候保全に興味はなかった頃だが、フランクフルト市は「今やらないとダメだ」と、市議会で政策を決定した。その目標値が、「2010年までにCO2の排出量を50%削減する」というものであった。今より20年以上前にこんなに高い目標を掲げたのだ。残念ながらこの目標は達成されなかったわけだが、今もなお2030年までの目標として継続されている。
フランクフルト市が1年間で排出するCO2は830万トン。大きな化学工場を2つ、空港を1つ抱え、排出量が多い。これまでに6%の削減に成功しているが、まだまだ足りない。2025年までに300万トンの削減を目指したプログラムを作成し、どの分野でどれだけ減らすかの目標を立てている。
目標達成に向けた5つの柱
フランクフルト市では高い目標達成のために、様々な取り組みを行ってきている。
①市町村(役所)自身がエネルギーの消費者である。
学校などをはじめとする公共の建物では、すでに25%の排出削減に成功している。まずは自分たちが管轄している建物から実践していこうということだ。確かに、自らもエネルギーの消費者なのだから、そこから実践するというのは当然のことである。こういったエネルギーマネジメントにより年間830万ユーロが節約されているというのだから驚きだ。
市には、300件ある施設のエネルギー家計簿が送られてきて、常にエネルギー消費を把握しているそうだ。また、新しい校舎や公共施設を造る際、どういった素材で作るかを記した20ページにおよぶカタログがあるらしい。
他にも、太陽熱だけで熱を保てるパッシブハウスの導入も盛んだ。これらは建設費が5%高いが、エネルギー消費は10%抑えられる。10〜15年でペイする計算だ。パッシブハウスは20年前に打ち出され、フランクフルト市ではすでに2つの学校と10の幼稚園で導入されている。学校や幼稚園で暖房やヒーターが不要だなんて、私たち日本人にはなかなか想像ができない。さらに言うと、フランクフルト市では今後建設する建物はすべてパッシブハウスでなくてはならない!!
パッシブハウスは高湿度の日本やアジアに合うものも開発され、もともとフランクフルト市のために考案されたものが、今では世界中に広がり始めている。
市では、コンピュータや机なども環境にやさしいものを作り出し、20年前から熱帯雨林を伐採した木を使わないとか、塩化ビニールを使わないなど、幅広い対策を徹底してきている。そして先を行くものとして、こういうことができるんだよということを伝えてきているそうだ。
②市町村は都市計画を持っていて、土地の利用、売買時にも気候保全のことを考える。
都市計画の中でも、常に気候保全のことを考えながら進めている。住宅や団地を計画・建設するときもそうだ。地域暖房のネットワークを組むこともそのひとつと言える。
市は責任と権限を持っていることから、たとえばインフラの整備や下水道整備について計画するときにも、エネルギーや気候保全に配慮して決定する。
③フランクフルト市は5万件の建物を所有している。
先にも書いたように、フランクフルト市で今後建設される建物はすべてパッシブハウスでなければならないと決められている。エネルギー消費の少ない建物しか建てることができないということだ。
1950年代の住宅を補修し、CO2の排出を50%削減した事例などもあるそうだが、個人オーナーの建物はそうそう簡単にはいかないらしい。そこで、エネルギーアドバイザーを派遣し、新しい方法などを提案する。昔の伝統的な家にはソーラーパネルの提案などを行うのだ。
他にも、失業者20人を教育しエネルギー削減サービスに就いてもらったところ、連邦の環境省で取り上げられ、今では60の市町村で実行されているそうだ。
④フランクフルト市がアドバイザーでもあり、モチベーターでもある。
市では、消費電力を削減したらお金を支給するなどの事業も展開している。市内の1,000台の冷蔵庫を対象に、省エネタイプの冷蔵庫に交換したら50ユーロをあげるといったことも行った。そうやって、市民や企業のモチベーションを上げ、維持していくこともフランクフルト市としての役割なのだ。
他にも、建設業やデザイナーを対象にしたパッシブハウスなどを巡るツアーも開催しており、パッシブハウスの一般家庭などを見て回り、今後の建築の仕事に生かしてもらっている。
⑤フランクフルト市はエネルギー供給者でもある。
市はエネルギー供給者として、発電時に発生した熱は市内に供給している。その熱を熱源として冷たい空気を作り、冷房にも利用している。ゴミの焼却熱も再利用し、発電に使っている。古い家具などの木材の焼却熱から、10メガWの発電をしているそうだ。近い将来、それらバラバラの熱源を一元化してくことも考えている。
以上の5つの柱でCO2の排出削減に取り組むフランクフルト市は、熱の効果利用、パッシブハウス、エネルギー消費量削減の町として認識されている。
現実味のある目標値
ドイツ全体では、2050年までにCO2の排出量を80%削減することが目標として掲げられている。京都議定書では2012年までに11%の削減を目標としていたが、昨年28%の削減に成功した。これに比べるとフランクフルト市の削減量はまだまだ小さい。しかし、先にも書いた5つの柱を中心とした政策の動きを見ていると、現実味ある目標に見えてくる。
研修後、ウェルナー・ノエマン氏を囲んで
目標を掲げることが自治体の役割ではない。自らもどうやってどれだけの削減をしていくのか。それを具体的に市民に示していくことも大切なことだ。フランクフルト市の状況を聞きながら、日本の状況と重ね合わせてみた。目標値を掲げるだけならば誰でもできる。問題はその目標をどうやって達成していくかだ。そこまでの階段をどう上がっていくかだ。私たち環境NPOと市民が自治体に働きかけていくことも重要なことだ。今までにない行政との連携も考えられると思いながら、ウェルナー・ノエマン氏の話を聞いていた。
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