ファンドレージング・アカデミーで聞くことのできた内容は、大きく2つある。一つは、ドイツにおけるNPOのファンドレージングの実態等についてである。これは、ファンドレージング・アカデミーで受講者に提供している基礎的な情報と考えてもよいだろう。もう一つは、ファンドレージング・アカデミーそのものについてである。つまり、ファンドレージング・アカデミーの設立経緯や経営の実態等についてである。 まず、ドイツにおけるNPOのファンドレージングの実態から紹介することにしよう。 最初に教えられたのは「ファンドレージング=black box」、つまり、よくわからないということだ。日本でも、特定非営利活動法人に認定された団体の数やその収支はある程度正確に把握できるだろうが、法人格をとらずに活動している団体も多いし、その中には、多くの資金を集めて活動している団体もある。こんなことを考えれば、ファンドレージングの世界がよくわからないのは、よくわかる。 ある調査によると、ドイツ国内で寄付を集めている団体は、14,000〜80,000と言われる。ものすごい数の幅である。別な調査によれば、ドイツ国内でファンドレージングに力を注いでいる団体は20,000〜544,701と言われる。「ん?寄付を集めている団体が14,000で、ファンドレージングに力を注いでいる団体が20,000。数が合わない!?」という顔で、トーマスを眺める。すると、「調査会社や調査方法によって数はこんなに異なる。だからファンドレージングの世界はよくわからないって最初に言ったでしょ」ということだった。 そして、1%の団体がドイツ国内の寄付総額の85%を獲得しているといわれる。これは、環境NPOに限った話ではないが、BUNDやNABU、WWFなどの環境NPOは、この1%の中に含まれている。 なるほど、少し胸をなで下ろす。BUNDやNABUの話を聞き、日本のNPOとの差に愕然としたが、それはドイツでも1%の話であって、他の99%は小さなNPOなのかもしれない。日本でのそうした割合は聞いたことがないが、ドイツのような二極分化はすすんでない、という気がする。実態の調査と比較分析の必要がありそうだ。 「1%の団体がドイツ国内の寄付総額の85%を獲得している」という実態は、近年、変化しつつある。地域の小さな団体がファンドレージングの手法を学び、多額の寄付を集めるようになっているということだ。それが可能になっているのは、地域住民と密接な関係を構築する団体が増えているからだろう。環境という公共財の性質とその受益者という観点からすれば、地域の環境保全を行う団体が地域から資金を集めるという考え方は重要である。その意味で、ドイツのNPO活動とファンドレージングは、よりよい構造へと変化しているのかもしれない。 この後も様々なデータの紹介が続く。「ドイツ内では、寄付の総額は60〜80億EU、財団からの助成は20億EU」とか「2003年度の調査では、14歳以上の45.1%が寄付行為をしている」とか「国別のファンドレージング先の割合」「ファンドレージングの手法の位置づけ」「これまで主力であったファンドレージングの手法、今後期待できるファンドレージングの手法」等々。驚くべき分析視角と情報量である。
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資料提供:ファンドレージング・アカデミー 訳:佐藤 剛史
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やはり問題は、日本にこうした情報を入手し分析しNPOに提供している機関があるかどうかということだ。しかも、ドイツの場合、ファンドレージング・アカデミーの行うこの事業が営利事業として成立しているからすごい。 そこで問題となるのが、ファンドレージング・アカデミーそのものについてである。 ファンドレージング・アカデミーの設立のきっかけは、ある有力なNPO団体がその必要性を認識し、ある学術研究機関の協力を得て、あるNPOの出資や寄付によって設立資金30万マルクを集め,設立したということだ。 現在、講師を務めるのは、有力なNPOのスタッフ等、30名である。これまでの卒業者の1/3がNPOの代表もしくは事務局長であった。 基本的に一つのコースは2年間で、その間にファンドレージングに関する知識や技能を身につける。受講期間中に、セミナー(講義)、コンサルティング(相談)、課題と実践などが行われる。セミナーやコンサルティングの方法としては、一方的に知識を伝達するという講義形式でなく、共に学び会う、いわゆる「ワークショップ」や「相互コーチング」といった手法が用いられている。基本的には通信制で、毎日・毎週、アカデミーに通わなければならないということではない。
現在は5つのコースがあり、今年度に各コース23〜27名の参加者がいる。受講料は2年間で約8000ユーロである。ファンドレージング・アカデミー全体の年間予算は約70万EUで、そのうち10%が利潤、25%が人件費という内訳である。 位置づけとしては私立の学校となるらしい。 NPOのための私企業というとおかしい気がするが、ドイツではNPOで働くプロフェッショナル(Dr所有者)が多数いる。NPOがプロフェッショナルのための一つの就職先だとすれば、そのプロフェッショナルが自分のスキルアップをするための専門学校という位置づけになるのだろう。NPOの世界が進めば、また新たな事業の可能性が生まれる。
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