湿原と人との関わり
ラムサール条約登録湿地となり国立公園に指定された今、人間の生活に密接に関わってきた釧路湿原は、保護と利用の両立を求めていく上で多くの課題をもっています。
人間が関わることで起きている現象として、湿原の面積そのものの減少があります。樹木の伐採や農地化、植林地再造成など、周辺環境の変化から湿原が受ける影響は大きく、これらが非湿原化を引き起こし、湿原自然の衰退の一因になっているともいわれています。
湿原の独特で広大な景観をフィルムに残そうとするあまり起きる問題もあります。樹木の伐採です。多くのカメラマンたちが、湿原そのものやそこを期間限定で走るSLにレンズを向けますが、視界を遮る樹木があると、その枝、もしくは時には根元から切り倒し、カメラを構えるというのです。周辺環境があってこその湿原景観だということを忘れずに、自然を傷つけない方法で撮ってほしいものです。
公園内を歩いていると、ごみ袋を片手に、一人周囲を見てまわっている方に出会いました。「アキアジが放られていた」と指差すその先には、筋子があったと思われるお腹の部分だけきれいにえぐられたアキアジ(サケ)が袋の中に横たわっていました。川でのサケの捕獲が禁じられる中で、こうした密漁も少なくないといいます。
ごみ拾いをされていたのは、「釧路湿原パークボランティアレンジャーの会」の方で時間があるときにはごみ拾いに来ているとのことでした。会でも、毎月第2日曜日に「クリーンウォーク」を行なっている他、ミニ観察会なども行なっているそうです。「レンジャー」と呼ばれるなかに、地元のより多くのこどもたちに釧路湿原に興味と関心をもってもらうために釧路湿原国立公園連絡協議会が始めた「こどもレンジャー」もあり、スクーリングや観察会、ボランティア活動が年間を通して行なわれています。
共に生きる未来へ向けて
現在「釧路国際ウェットランドセンター」では、国際協力事業団(JICA)研修員の受け入れや国際会議、国際ワークショップの参加者と地域の人との交流など、湿地保全に関する地域や国を超えた協力・ネットワーク活動を展開しています。地域レベルでの国際協力が必要な理由としては、渡りをする生き物そのものや国境を越えて存在する湿原を守ること、地域がもっている多くの課題を、世界的な視野からアイデアを得て解決を試みることなどがあげられます。
都市部よりも人々の生活と自然が密接に関わる地域では、同じ状況にある途上国とお互いの情報をシェアしあう意義はとても深いため、持続可能な社会の発展に向けて、共に両者が手を組んでいく必要性があると、釧路国際ウェットランドセンターの新庄さんは話しています。釧路から世界へ、世界から釧路へ、今、国境を越えた情報交流が行なわれています。
数万年前、日本が大陸と地続きだった時代がありました。現在は、海に隔てられていますが、それでも自然環境に国境はないといえるのではないでしょうか。それは、国籍の区別なく生きている渡り鳥の存在が物語ってくれています。
動植物は70〜90%が水でできているといわれます。そして地球の表面の約72%は水で覆われています。人間が生きていく上で必要不可欠な水は、同時に、他の生物や自然環境にとっても不可欠な共通の財産です。釧路から世界に発信しているように、国際的に共に手を取り合って協力し、自然やそこに生きる生物たちとの共生を目指してゆくことで、より人間と自然との営みが深まっていくのではないでしょうか。
ごく身近な視点からグローバルな視点に到るまで、次世代の子どもたちに美しい自然を引き継いでいくために、今私たちができることは何か考えてみませんか。水の惑星「地球」に生きる仲間として、共に生きていく生命の声に耳を傾けてみましょう。
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