「アトゥサヌプリ」「ポフケ(ボッケ)」「トーラサンペ(マリモ)」「クッチャロ(屈斜路)」…カタカナや当て字で表現されたなんだか聞きなれないこの名前。北海道にはアイヌの祖先たちが名付けた名称が今もなお、親しまれ、現代に語り継がれています。これらアイヌの言葉にはすべて意味があります。
例えば、「アトゥサヌプリ」。これは、屈斜路湖の東にある川湯温泉から3キロのところに位置する硫黄山のことです。アトゥサは「裸」ヌプリは「山」という意味を持ち、その様相を見る限り「まさにその通り!」と思わずうなずいてしまいます。阿寒国立公園では、こうした名称に至る所で出会うことができます。それでは、アイヌ祖先から現在に受け継がれている美しい自然を知る旅に出ましょう。
火山と森と湖が織りなす景観
阿寒国立公園は、1934年(昭和9年)に日光や大雪山などとともに日本で2番目に国立公園として指定されました。北海道の道東中央部に位置し、屈斜路、摩周、阿寒の カルデラ地形を基盤とした、火山と森と湖が織り成す原始的景観を持つ公園です。太古の時代の様相をそのままに、阿寒国立公園の原始的景観は、その東西で姿を変えます。
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指定日 |
:1934年 (昭和9年) 12月4日 |
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面積 |
:90,481ha (2014年3月31日現在) |
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年間利用者数 |
:360万人(2012年度) |
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関係都道府県 |
:北海道 |
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掲載記事は2001年 (平成13年) 7月取材当時のものです |
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東側は、藻琴山に続く稜線を外輪山として、世界規模を誇る屈斜路カルデラが続いており、最長26キロ、最短径20キロとなっています。また、多くの温泉群があります。一方西側は、現在もなお白煙の立ち上る雄阿寒岳や雌阿寒岳、フップシ岳といった火山がそびえています。この地域は、世界有数規模の火山性陥没地形となっており、阿寒湖を中心にパンケトー、ペンケトー、オンネトーといった美しい湖を望むことができます。それでは、阿寒湖国立公園最大の魅力である摩周、屈斜路、阿寒の3つの湖には、どんな特色があるのでしょうか。
NO.1を誇るそれぞれの湖
約7千年ほど前、屈斜路カルデラの東壁を貫き摩周火山が噴火、頭の部分が陥没し、摩周カルデラが誕生しました。その後長い歳月が流れ、雨水や雪解け水がカルデラ部分に溜まり、水がめ式湖の摩周湖へと生まれ変わったのです。摩周湖周辺は、ほぼ360度険しい崖が続き、原生林に覆われています。そのため、公の調査や研究目的以外の人間が、摩周湖の湖畔に行くのはほぼ不可能です。
また、湖に注ぐ川がなく、水の流出、流入する経路はありません。これらのことから、摩周湖は今もなお、世界有数の透明度を保っているのです。 摩周湖の場合、湖畔まで行くことは大変難しいのですが、展望台から見る景色は本当に素晴らしいものです。夏になると「霧の摩周湖」の名のとおり、一ヶ月の半分ほどしかその全景を見ることができないようです。摩周湖は、季節どころか、1分1秒ごとに湖をとりまく景観を変化させています。
日本最大のカルデラ湖である屈斜路湖は、周囲56.6キロ、面積79.5キロ平方メートルの広さを有しています。冬になるとその湖面は全面氷結し、国内最大級の「御神渡り」と呼ばれる現象に出会うことができます。「御神渡り」とは、氷の亀裂が隆起する現象のことを意味し、湖についた氷の亀裂は、まるで神様の足跡のようです。また、地熱現象地帯である和琴半島においては、北限のミンミンゼミが生息するなど、独特な生物分布を見ることができます。屈斜路湖は多彩な自然の宝庫なのです。
今から1万年ほど昔、雄阿寒岳の噴火活動により溶岩流が古阿寒湖に流れ込み、ペンケトー、パンケトー、阿寒湖の3つに分断されました。阿寒湖は火山活動によって形成された堰止湖です。 周辺は、エゾマツ、トドマツなどの針葉樹と、ヤチダモ、イタヤカエデなどの広葉樹が原始的混交林を織り成し、湖畔全体を取り囲んでいます。また、活発な火山活動により各地で温泉が流出しており、湖畔では、 ボッケとよばれる泥火山を見ることができるのも大きな特徴です。阿寒湖は、天然記念物マリモの生息地としても広く親しまれています。
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