イリオモテヤマネコが棲む森〜西表島
世界の亜熱帯降雨林域は、その占める面積が狭い上に開発が進行し、自然林は極めて少ないといわれています。その中で、西表島のまとまった亜熱帯自然林は未だ原生的な形で残っており、多くの熱帯系、大陸系、そして島固有の動植物の宝庫となっています。
特に仲間川下流に広がるマングローブ林は、日本最大規模の群落を形成し、潮の満ち引きによってその表情を大きく変化させます。満ち潮が、マングローブの森に海の魚たちを連れてきて、時に1m級のヒラアジや2mを超すサメも紛れ込みます。そして、潮が海に戻るとき、魚たちと共に、森で作られた栄養分を海へと運んでいきます。まさに、川の流れが、海と陸の生命をつないでいるのです。
また陸地では、八重山諸島にだけ自生する貴重な大型ヤシであるヤエヤマヤシ群落や、アジアの熱帯に広く見られるサキシマスオウノキ林やサガリバナ林の群落が発達し、公園の景観を特徴付けています。そして最後の秘境と呼ぶにふさわしい変化に富んだ生態系は、国の特別天然記念物に指定されるイリオモテヤマネコやカンムリワシをはじめ、セマルハコガメやリュウキュウキンバトなど、数多くの島固有の動物を育んでいます。
野生生物との共存を目指す取り組み
イリオモテヤマネコは1965年(昭和40年)、西表島で発見され、ネコ科動物の祖型の形質を備えた、世界中でこの島だけに生息している一属一種の野生のネコで、西表島の食物連鎖の頂点に位置する捕食者です。現在、交通事故や島外から来た動物による伝染病や獲物の減少、農地や道路開発などによる生息域の減少・分断などにより、その生息頭数は100頭前後にまで減り、絶滅が危惧されています。
このような現状をうけ、「西表野生生物保護センター」では、イリオモテヤマネコの個体数や行動など、その保護を図る上で不可欠なデータの収集や調査研究、また交通事故等で負傷した個体の治療やリハビリテーション、さらに事故防止を呼びかける道路標識の設置などの保護・啓発活動を積極的に行っています。
また昨今では、イリオモテヤマネコの生息を脅かす要因として、イエネコや野良猫からの病気感染が注目されています。地元市民団体である「西表マヤー小(グゥアー)探偵団」は、九州地区獣医師会連合会の協力のもと、イリオモテヤマネコをネコエイズの原因であるネコ免疫不全ウイルスやネコ白血病ウイルスによる感染から守ろうと、1999年(平成11年)より、イエネコのウイルス検査やワクチン接種、さらに頭数調整のための不妊化手術の実施、また個体識別のためのマイクロチップ埋め込みなどを行っています。
これら島人を中心とした、地に足のついた地道な活動を受け、西表島に初めて動物診療所が開設されるなど、少しずつ周囲に変化が見え始めています。同会代表の藤田さんは「竹富町では東京都小笠原村に次いで全国2番目に、飼いネコを登録し管理を徹底させる「ネコ飼養条例」が施行されたり、沖縄本島北部の山原(やんばる)でも、絶滅の恐れのあるヤンバルクイナなどの野生生物をイエネコから守る動きへと発展したりと、西表島独自の活動が、自然に広がりを見せてきたことが何より嬉しい。」と、希少な野生生物保護の西表モデルを着実に示すと同時に、小さなしかし地道な市民ボランティア団体として「できること」の大きさ、そして可能性を実感されていました。
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