阿蘇山(巨大カルデラ)の成り立ち 高い所から火口を一望できる東展望所に対して、下山してたどりついた西側の展望所は、接近して火口を見られるのが魅力です。
しかし、火口からは有害な二酸化硫黄(SO2)や硫化水素(H2S)が常に流れてきていて、風向きによっては立ち入れないこともあります。この日も風向きが変わるたびに、立ち入りが許可されたり規制されたりしていました。また西の展望所にはガスが突然流れてきたときに避難する避難所まで用意されているんです。
展望所から、さらに下山して、訪ねたのが「阿蘇火山博物館」です。ここで、世界最大のカルデラといわれる阿蘇山の成り立ちを勉強してきました。
現在の阿蘇山の火山活動が始まったのは、いまから約30万年前のことだそうです。そして14万年前、12万年前、9万年前と、あわせて4回の大規模な噴火が起こり、そのたびに阿蘇は大量のマグマを噴出しました。その量はなんと400億トンといわれています。噴火後の阿蘇はすり鉢のような形だったようですが、噴出物の後を埋めるように地面が陥没したり、水による浸食や地滑りで、現在、見られるような南北24km、東西18kmの巨大カルデラになったのです。ちなみにカルデラとは、ポルトガル語で「鍋」の意味だそうです。
緑にも恵まれた阿蘇 ところで、この火山博物館の目の前に「草千里ヶ浜」という景勝地があります。浅いお皿のような形をした土地に、緑のビロードのような草原が広がり、たくさんの牛や馬が放牧されているのです。観光客が立ち入ることもできますが、人が近寄っても、牛や馬はどこ吹く風。のんびりと草を食んでいます。そしてその向こうにはやはり緑の烏帽子岳。先ほどまでいた荒涼たる中岳火口と約3kmしか離れていないというのがウソのようです。こんな対照性。コントラストも阿蘇の大きな魅力となっているようです。
このほかにも阿蘇にはピラミッドのように均整のとれた山「米塚」や、阿蘇五岳の遠望がお釈迦様の寝姿に見える「大観峰」など、見事な自然景観を楽しめるポイントがいくつもあります。
阿蘇山の火口や草原に住む植物 いまも活発な火山活動を続け、火山ガスを発生する中岳。なかでも火山灰が積もる火口周辺には、とても植物は住めないのでは……。こう考えるのもムリはありませんが、そうではありません。
火口付近でドーム状に成長するイタドリやコイワカンスゲなど、いくつかの植物が、厳しい環境でも力強く生きているのです。イタドリやコイワカンスゲは火山灰に強く、根が火山灰をつかんでふくれてドーム状になるのです。また、5〜6月に赤紫の花を咲かせるミヤマキリシマも火口の付近に群落をつくり生育しています。
火口から離れて、草原地帯に目を向けると、そこはもう植物園といっていいほど、さまざまな花が季節ごとに咲き誇っています。その数はなんと1600種にもなり、まさに植物の宝庫といえます。興味深いのはツクシマツモトやヤツシロソウ、ハルリンドウ、キスミレといった大陸系の植物が生育していること。これらの植物は、15万年前、九州と大陸が地続きのときに南下してきたものです。
阿蘇の自然を語るとき、忘れることができない動物に牛がいます。阿蘇の草原の至る所に放牧されている牛は、肥後のあか牛(褐色和種)という種で、非常におとなしい牛です。現在の肥後のあか牛は、奈良時代から明治まで飼われていた在来のあか牛に、スイスのシンメンタール種を交配させて改良した牛なのです。あか牛の肉は鮮やかな色と光沢があり、肉質はまろやか。しかも黒牛に比べて脂肪分が少なくヘルシーだといわれています。
ところで、牛と草原を調べているうちにおもしろい話を聞きました。それは、阿蘇の草原は牛によって守られているというものです。牛がいるからこそ人間は春に野焼きをし、野焼きをするからこそ草原が維持されるというのが理由の一つです。二つ目の理由は、牛が草を順番に食んでいくことで、草原がきれいな絨毯のようになり、糞をすることで草原の土が肥えることです。
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