魑魅魍魎(ちみもうりょう)の棲むところ 悠久の歴史に育まれた京都から特急で南へ約1時間。奈良盆地を通り抜け、こんもりした小さな山々と線路沿いに大きな川「吉野川」が見えてくると、そこはもう紀伊半島の中央部「吉野」です。そこから更に南へ行くと大峰山脈と太平洋に囲まれた「熊野」へ至ります。この、奈良、和歌山、三重の3県にまたがる「吉野」「熊野」地域が吉野熊野国立公園として指定されたのは1936年(昭和11年)2月1日のことでした。
「モスフォレスト」と呼ばれる幻想的な風景や 瀞景観として有名な「瀞八丁」、日本一の高さ(133メートル)を誇る「那智の滝」などが見られ、自然に創られたとは思えないほどの不思議な形をした「橋杭岩」などバラエティ豊かな地形が見られます。
吉野熊野国立公園には、山、川、海の全てがあり、生息する生物の種類も多種多様です。海中では、暖かい黒潮の影響で、小笠原や沖縄、奄美大島でしか見られないサンゴを見ることができます。
ところで、この紀伊地方には昔から「魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)している」といわれ、数々の昔話が生まれ語り継がれてきました。「魑魅魍魎」とは「様々な化け物」の意ですが、他には「山や木、水や石に宿る神様」という意味があります。
濃い霧がかかった幻想的な森や足を踏み入れるのを躊躇してしまうほど奥深く険しい山々には、巨大な岩壁、幾千年も生きてきたであろう巨木、世にも奇妙な形をした岩があります。そんな神技としか思えないような造形や人がとても太刀打ち出来そうもない大自然に対し、昔の人々は自然と畏敬の念を抱いたのでしょう。
これはやがて、山岳宗教に発展し、吉野熊野は多くの人々の修行や祈りを捧げる場所となりました。そして、このことは、吉野、熊野の自然の変遷と深い関わりを持っていきます。
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