一本たたらが伝える人と自然のかかわり方 このお話は、大台ヶ原に古くから伝わる昔話です。ところで、なぜ「一本たたら」というのでしょうか。大台ヶ原ビジターセンターの岩本泉治さんのお話によると、「この話は実は昔から住んでいる村人と山を切り崩し製鉄業を営んだたたらの人々の軋轢を描いたもの」なのだそうです。大自然からの恵みがまさに生活の糧であった村人たちとその生命線ともいえる山を削って生活をしているたたらの人々との間には常に対立があったと考えられています。「一本」というのは、片足を打ち落とされたたたらの人々を表しているとか。つまり、製鉄作業のなかで、鞴(ふいご)といって、空気を送る作業があるのですが、これは両足がないとできない仕事だったので、村人がたたらの人々の片足を打ち落としたというわけです。しかし、実際に血で血を争うような戦いをしていたというわけではありません。ただ、両者の間に豊かな自然の利用を巡って緊張関係があったということです。
この昔話は、宮崎駿監督の映画「もののけ姫」を彷彿させますね。豊かに暮らそうとする人間と自然とともに生きようとする人間との話は、現代にも共通するものではないでしょうか。
数多くの妖怪伝説の舞台となった大台ヶ原。それは、1年に平均約4千8百ミリ降る豊かな雨によって濃い霧が発生したり、低温だったりと悪天候の中で行方不明になる人が多かったからだといわれています。
しかし、その人を寄せ付けないほどの深い森に今、異変が起きています。その異変とは何か、なぜ起こったのか、そして、人々はどう取り組んでいるのか。
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