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夜の帳の降りた室内に、信じられない数の小さな光が点滅しはじめた。「ホタル祭りin西神楽」を前に、「幼虫大量飼育装置」でほぼ1年を過ごしたホタルが、続々と成虫になりはじめているのだ。ホタルが光るのは、成虫になってからの最後の10日間だけ。「ホタル祭り」では、西神楽公園のせせらぎで1000〜2000匹のホタルの成虫が放され、7000人もの人が訪れる。今年で11回を数える祭りは、旭川の夏の風物詩として定着し、「ホタルといえば西神楽」とまでいわれるようになった。 このホタルの里づくりの立役者が、西神楽ホタルの会事務局長の坂井弘司さんである。坂井さんは、中学の数学教師として40年近く教壇に立ってきた。 「最後に校長を務めた中学の科学部の活動の一環に、ホタルの保存・育成がありました。その子たちを見ているうちに、自分自身でもっと大規模な飼育をして、ホタルを自然に帰せないものだろうかと考えるようになったのです」 もともと水の豊かな旭川は、道内では有数のコメどころである。郊外には田園が広がり、夏ともなれば、ホタルの群舞が見られる土地だった。しかし、農業環境の変化、とくに用水路の三面コンクリート化や家庭排水に含まれる化学物質、街灯の整備による明るさなど、複雑な要因が絡まり、ホタルはいつの間にか希少な存在になってしまった。
「幼虫大量飼育装置」の中で育つのはヘイケボタル。部屋の照明を消せば夢幻の世界が広がる
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坂井さんの人柄にひかれて多くの人が活動に加わっている
かろうじて残ったホタルを育成しようと励む生徒たちに触発された坂井さんに、転機が訪れた。旭川市が、それまでキャンプ場だった地域を整備して自然公園にしようとする計画を立てたのだ。坂井さんは、そこにせせらぎを再現できれば、ホタルの再生は可能だと考えた。そこでPTAの役員を中心にホタルの会の結成をよびかけたところ、個人の他に、賛助会員になってくれる企業も現れ、自然公園内にホタルの生息に適したせせらぎをつくることができた。
ホタルの会が設立された1996年にちょうど定年を迎えた坂井さんは、以来、幼虫の飼育のための生態研究や飼育装置の開発に取り組んできた。専門家の元に通ってはホタルについて一から学び、周囲の知恵と力を集め、会の地盤固めに奔走した。
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