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美しい海が突然牙をむいたあの日。東日本大震災の映像を見て、誰もが思った。自然の猛威の前に人は無力だと——。本当にそうだろうか。
「本物の海も山も知らずに、危ないとか、怖いとか、自然をイメージで語るだけでは何もできません」
NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表の広瀬敏通さんは、本物の自然に触れて、その豊かさも厳しさも全身で実感する体験を積み重ねることが、人間の生き抜く力を引き出す命綱になるという。
震災発生2日後、広瀬さんらは「RQ市民災害救援センター」を設立し、宮城県登米(とめ)市などで現地本部を立ち上げた。7月までにのべ1万人以上のボランティアを動員。行政の手が届きにくい小規模の避難所に入り、被災者のニーズに応じたきめ細かい救援活動を続けている。広瀬さんは日本の自然学校の草分け、「ホールアース自然学校」の創設者でもある。いまでは全国に自然学校が広がり、そのネットワークを活用できるのもRQの強みだ。しかしなぜ環境教育やエコツーリズム推進の第一人者が、災害救援なのか。
「自然体験活動やエコツアーを運営していると、自然の中で人と人を、人と地域社会をつなぐコミュニケーション能力や調整能力が身についてくるんです。もちろんサバイバルの経験、技術も培われます。そうした能力が災害時の救援活動に活きると確信したのは、1995年の阪神・淡路大震災でした」
押し寄せるボランティアを仕切りながら、救出活動や避難所の運営に奔走した広瀬さんは、混乱する現場にあって、自然学校のスキルやノウハウが驚くほど役に立つことを実感した。2004年の新潟中越地震の際に、メディアさえ入れない危険な地域にいちはやく駆けつけたのも、広瀬さんの率いるチームだった。
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自然学校のプログラムでは自給自足が基本。畑で野菜を収穫し(上)、鶏の解体も体験する(下)。食べ物が命であることを学ぶと、子どもたちは食事を残さなくなるという
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