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わが街の環境マイスター 人の関わりが未来の豊かな湿地環境を育む
上山剛司さん (庄内自然博物園構想推進協議会鶴岡市自然学習交流館ほとりあ)

豊かな生命が息づくのは手つかずの自然の中だけではない。社会の変化で生まれた都沢(みやこざわ)湿地には多様な生き物が暮らす。新しい人と湿地の関り方を未来につなぐ挑戦が始まった。

 

私の仕事は自然の中
 

山岳信仰の対象である月山を望む山形県鶴岡市。広々とした平野には水田や名産品であるだだちゃ豆の畑が広がる。都沢湿地はこの風光明媚な街の海寄りにある。

都沢湿地は、元は水田だった場所だが減反政策の対象となり休耕田に。しかし隣接する下池からの滲出水によって湿潤な環境が保たれ、かつて庄内地域に広がっていた貴重な低湿地環境が成立した。

この地で自然と人を繋ぐ活動をする上山剛司さんは鹿児島出身だ。幼いころに観たテレビ番組の影響で将来は自然や生き物に関わる仕事につきたいと思っていたという。大学は北海道で、鶴岡に縁ができたのは大学院時代。樹洞の研究をする傍ら野生生物サークルを立ち上げ、地域の自然と触れ合った。

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下池を背にした上山剛司さん。湿地のどろキャラクターである「どろっぱ」と一緒に湿地環境の魅力について発信している
 

その後は長崎県の対馬へ赴き、ツシマヤマネコの保護のための環境教育に携わる。出張授業やボランティアコーディネートの知見を身につけ、再び鶴岡へ戻ると未就学児の森林環境教育などの業務に従事。都沢湿地に関わるようになったのは2010年ごろだ。

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夏休み中、施設10年を記念し、湿地の生きもの展を開催
 

「そのころの都沢湿地は長年の協議の結果、湿地環境として残し、守っていくことが決定していました。しかし、守るという考え方は人によって異なります。私の最初の課題は自然保護団体や住民、研究者、行政などの多様な関係者が描く湿地の未来を整理し、どのように一緒に活動するかということでした。そういう意味では、どの立場にも関わり、肩入れしすぎないよそ者である私は都合のよい人材だったのかな(笑)」

やがて都沢湿地の基本計画が完成。その協議会の拠点施設として鶴岡市自然学習交流館「ほとりあ」が2012年に開館し、上山さんはそこの学芸員に。2020年からは副館長を兼任し、事業企画や施設運営、人事管理、資金調達などその業務は多岐にわたっている。

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左手が下池、右手が都沢湿地。後ろに見えるのはブナの群生林が残る高館山。多様な環境がコンパクトにまとまっているのがこの一帯の特徴だ

人を湿地に巻き込む
 

「開館当初は本当に大変でした」と上山さんは笑って振り返る。湿地を守っていくことは関係者間で合意されていたものの予算も職員も少なく、詳細な事業や運営については手探りだった。はじめに、上山さんは湿地の課題である①植生遷移、②外来動植物の増殖を解決するために人が湿地環境を楽しみながら学び、活動に取り組むことのできる事業を企画し実践した。遷移の結果、多くなったマコモは刈り取り、リースやお茶にするワークショップを企画、手芸や料理が好きな女性らの参加を促した。外来種であるウシガエルやアメリカザリガニはスタッフによる定期駆除に加え、来場者に捕まえてもらう仕組みを整え、食材として地元の飲食店に提供。さらにアメリカザリガニの粉末化に取り組み、食を通じてより多くの人が事業に参画する機会を作った。

「多くのイベントを支えてくださっているのが、80名を超えるサポーターと呼ばれるボランティアの皆さんです。今年から賛助会員の登録も始まり、資金面での応援もいただいています」

また、地域の小学校の総合学習も積極的に受け入れている。

 

「施設が開館してまもなく10年。小学生のときに遊びにきていた子供たちも大人になりました。これまではよそ者の私がこの地域の自然の豊かさや楽しさを伝えてきましたが、今度はここで育った彼らがここで働き伝えていってほしいです。次世代の育成も大切です」

 
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今年から本格した大型湿性植物のマコモの刈り取り。刈り取ったマコモは粉末にしてマコモ茶に。すっきりとした抹茶のような味わいだ

人が関わり育まれる自然
 

湿地環境は人の手が入がらないと、すぐにマコモやヨシといった大型湿性植物が繁茂し、それらが水面のほとんどを覆い隠してしまう。

「けれど、それでは背の低い湿性植物が生育しにくく、広く開けた水面を必要とするトンボやホタルなどの水生昆虫も増えません。人が積極的に植物を刈り取ることで、多様な生き物が生息できる環境を作り出しているんです。近年、刈り取り続けた場所ではヘイケボタルの姿を見ることができるようになりました」

 

さらに、都沢湿地の土には水田であったときに生育していた植物の種子(埋土種子)がたくさん眠っているという。

「本来、湿地は洪水や土石流など自然の力で壊れ、もとに戻ります。でも現在は、人の生活を維持する上で災害は起きないほうがよい。そこで、湿地の一部をショベルカーでかき回してみたんです。するとミズアオイなどの希少な湿性植物がよみがえりました」

 

子供たちに大人気のザリガニ釣り。楽しみながら外来種駆除に貢献。回収したザリガニは粉末にして食材として販売中(右)
 

湿地の土をコンテナで育てる事業にも取り組み、今年はソーラーパネルによる流水システムを設置し、自然エネルギーを用いた新たな管理方法も確立した。

「わざわざ手をかけて自然環境を維持することに疑問を持つ人もいるかもしれません。しかし本来、自然は私たちの生活の一部で、人の手を入れることで多様な生き物が育まれる一面もあります。そして、現在はどのように人が自然を活用していくか、その関わり方を考える時代になりました。これからも人が自然と楽しく関わる多様な入り口を提供できればと思っています」

(2021年秋号より)

CONTENTS
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コンテンツ
・きれいなだけではない、豊かな海に 志田 崇さん NPO法人 あおもりみなとクラブ 理事
・地域が育てる自然を愛する心 吉元美穂さん NPO法人 登別自然活動支援組織 モモンガくらぶ 事務局長
・中高生たちが体で覚える森の大切さ 宮村連理さん NPO法人 「緑のダム北相模」副理事長
・人の関わりが未来の豊かな湿地環境を育む 上山剛司さん 庄内自然博物園構想推進協議会鶴岡市自然学習交流館ほとりあ
・エコツーリズムで館山を元気に 竹内聖一さん NPO法人 たてやま・海辺の鑑定団 理事長
・竹林を舞台に地域の輪をつなぐ 豊田菜々子さん NPO法人 環境保全教育研究所 代表理事
・震災10年 子供たちの声が響く海を取り戻す 伊藤栄明さん 松島湾アマモ場再生会議 副会長
・都市のみどりを次世代へ 村田千尋さん 特定NPO法人 みどり環境ネットワーク! 事務局長
・釣り人の聖地・琵琶湖でごみを拾う 木村建太さん プロアングラー、淡海を守る釣り人の会 代表
・土木工学が出発点。海辺の環境保全に挑む「ハゼ博士」 古川恵太さん NPO法人 海辺つくり研究会 理事長
・故郷の廃村に新たなにぎわいを 松浦成夫さん NPO法人 時ノ寿の森クラブ 理事長
・荒れ果てた藪を、ホタルが舞い飛ぶ森に 伊藤 三男さん 学校法人田中学園 学校法人緑丘学園 監事
・美ら海への思いを大地に植える 西原 隆さん NPO法人 おきなわグリーンネットワーク 理事長
・都市の貴重な干潟を守るボランティアの力 橋爪 慶介さん DEXTE-K代表
・浜辺のごみ拾いを20年で大きな運動に 鈴木 吉春さん 環境ボランティアサークル 亀の子隊代表
・「美味しい」を手がかりに大阪湾を再生 岩井 克己さん NPO法人 大阪湾沿岸域環境創造研究センター 専務理事
・環境保全活動を通して、成長する若者たち 草野 竹史さん NPO法人 ezorock 代表理事
・主体性のある人間を自然の中で育てたい 山本 由加さん 認定NPO法人 しずおか環境教育研究会(エコエデュ) 副理事長兼事務局長
・付加価値の高い木材で山を元気に 藤﨑 昇さん NPO法人 もりずむ 代表理事長
・自然を大切にする人を育てる幼児教育 内田 幸一さん 信州型自然保育認定園「野あそび保育みっけ」 園長
・企業経営で培った組織のマネジメント 秋山 孝二さん 認定NPO法人 北海道市民環境ネットワーク 理事長
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 髙木晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

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