bar
文字サイズ
わが街の環境マイスター 地域が育てる自然を愛する心
吉元美穂さん (NPO法人 登別自然活動支援組織 モモンガくらぶ 事務局長)

自然に囲まれた街に住んでいながら、その大切さを実感していない市民は少なくない。
地域の自然に本気で触れ合うことで、豊かな生き方を学んだ人たちがいる。

 

初めて知った身近な自然
 

「私たちが提供しているのは、学校では学べない、自然をフィールドにした社会教育の場です。自然に触れることで、日々の生活の知恵や工夫、そして人生を豊かにする方法を学んでほしいと思っています」

モモンガくらぶ事務局長の吉元美穂さんは、団体の意義をこう語る。

活動の拠点は北海道南西部に位置する登別市。豊かな海と清流、登山初心者でも歩ける山々と、ここにはあるがままの自然を満喫できる条件が揃っている。アウトドア好きにはたまらない遊び場だ。しかし地元に住んでいても、まったく自然に触れずに大人になる人もいるという。

「以前、野外活動に参加されたお母さんが『初めてカタツムリというものを見た』とおっしゃっていました。大人になるまでカタツムリを知らなかったということはないでしょうが、自然のなかで意識して観察することはなかったのだと思います」

photo
「自然のなかでは大人にも子供にもたくさんの言葉が生まれます。人と自然だけでなく、人と人の関わりも増やすんです」と吉元さん
 

豊かな自然に囲まれていても、それに親しむ機会がなければ、自分たちが暮らす環境にも無関心になってしまう。そこでモモンガくらぶでは、自然の中で学びたいと思う個人や団体を受け入れ、川遊びや沢登り、登山やスノーシューなど、自然に親しむ機会を創出している。

子育て支援のための「森のようちえん」や、大人向けの自然体験学習も大事な活動の柱だ。

 

「遠方からの体験希望者も受け入れていますが、基本は地域住民のための社会教育事業として活動を展開しています。まずは地域の生活と教育の基盤を整えること。それがないと、自分たちをとりまく自然に対し、大切に思う気持ちは生まれてこないからです。私たちがおこなっているのは、“人”を中心に据えた事業。“地域と人ありき”というのが考え方の基本なのです」

photo
川遊びのようす。子供に交じって大人も思わず大はしゃぎ

初めて知った身近な自然
 

10代のころから社会課題の解決に関心があった吉元さん。高校生のときに環境問題に関心を持ち、日本の森林再生に携わりたいと東京農業大学農学部林学科に進学した。卒業後は経営コンサルタント会社に就職。よりよい社会の創出に関わる仕事を志したが、理想とは異なる現実を前に、NPOへの転職を決める。

「私が最初にNPO団体に参加した2004年ごろは、市民の社会貢献に対する意識が大きなうねりとなっていた時期で、私もその勢いに飲み込まれるように市民活動への仲間入りをしました」

 

吉元さんの出身地は東京だが、父が転勤族だったことから引っ越しが多く、地方への移住はまったく抵抗がなかったという。コンサル会社を退職すると、矢も盾もたまらず職員の募集があった北海道登別までひとっ飛び。

「かつては青年海外協力隊に応募しようかと思ったほど、昔から社会に貢献したいという思いがありました。でも、いくら社会教育をしたいと思っても、自分の思いだけでは実現できません。組織の基盤を整え、社会にアプローチする仕組みづくりが必要です。『地方でも最先端の仕事をしてやろう』という意気込みで、ITツールを積極的に導入し、いろんなことにチャレンジしています」


学び続ける姿勢
 

モモンガくらぶに所属してからは、事務局長としての活動をしつつ、自然体験活動指導者としても事業を展開している。

「林学を学んでいたとはいえ、もともとインドア派です。アウトドアのことは登別に来てから学びました」

団体の活動領域の拡がりに合わせて、地域子育て支援士、保育士、社会福祉士、北海道認定・北海道アウトドアガイドなど、続々と資格を取得し、現在は札幌大学で非常勤講師として「野外教育」をテーマに教鞭をとるようにもなった。

 

2018年にはセブン-イレブン記念財団の環境NPOリーダー研修に参加。環境教育の盛んなドイツで学んだ先端の教育手法を持ち帰った。

「ドイツは国民の環境意識も高く、補助金を含めて支援の規模が違います。社会制度が体系化されていて、選択肢も多く、若者が活躍できる環境も整っていると思います。訪問先の団体では、組織のユース部門が活発で、人の動きがうまく循環していると感じました」

photo
「子どもコーザンネイチャーガイド」の取り組みの一幕。ガイドとして学んだことを披露する
photo
泣いたり笑ったり、自然のなかではいつもドラマが生まれる
photo
自分たちでおこした焚き火で焼くマシュマロは格別

地域に育てられた人を増やしていきたい
 

モモンガくらぶは、まもなく創設から20年を迎える。参加する子供たちはすでに3世代目に入っており、ボランティアたちも高齢化が進んでいる。地域の自然を大切に守ろうという人の数は増えてはきているが、新たな課題も浮上してきた。

「活動に参加してくれていた子供が大きくなって、環境系の学部に進学したという報告を聞いたときは、とてもうれしくなりました。それは地域が“自然を守る人育て”に貢献できたということですから。私も関わり始めは大人になってからですが、地域に来てたくさん学び、育ててもらいました。

しかし、これまで関わってきた地域の方々が高齢になり、今後も関わりを辞めずに活動を続けられる選択肢を持てるような居場所づくりも必要だと感じています。人生100年時代、地域みんなで次世代の子供たちを見守れる、これからの形を模索していきたいです」

[photo]
苔むした雄大な景色が広がるフンベ山の滝沢ルート。本格的な沢登りが体験できる
CONTENTS
------------------------------
コンテンツ
・きれいなだけではない、豊かな海に 志田 崇さん NPO法人 あおもりみなとクラブ 理事
・地域が育てる自然を愛する心 吉元美穂さん NPO法人 登別自然活動支援組織 モモンガくらぶ 事務局長
・中高生たちが体で覚える森の大切さ 宮村連理さん NPO法人 「緑のダム北相模」副理事長
・人の関わりが未来の豊かな湿地環境を育む 上山剛司さん 庄内自然博物園構想推進協議会鶴岡市自然学習交流館ほとりあ
・エコツーリズムで館山を元気に 竹内聖一さん NPO法人 たてやま・海辺の鑑定団 理事長
・竹林を舞台に地域の輪をつなぐ 豊田菜々子さん NPO法人 環境保全教育研究所 代表理事
・震災10年 子供たちの声が響く海を取り戻す 伊藤栄明さん 松島湾アマモ場再生会議 副会長
・都市のみどりを次世代へ 村田千尋さん 特定NPO法人 みどり環境ネットワーク! 事務局長
・釣り人の聖地・琵琶湖でごみを拾う 木村建太さん プロアングラー、淡海を守る釣り人の会 代表
・土木工学が出発点。海辺の環境保全に挑む「ハゼ博士」 古川恵太さん NPO法人 海辺つくり研究会 理事長
・故郷の廃村に新たなにぎわいを 松浦成夫さん NPO法人 時ノ寿の森クラブ 理事長
・荒れ果てた藪を、ホタルが舞い飛ぶ森に 伊藤 三男さん 学校法人田中学園 学校法人緑丘学園 監事
・美ら海への思いを大地に植える 西原 隆さん NPO法人 おきなわグリーンネットワーク 理事長
・都市の貴重な干潟を守るボランティアの力 橋爪 慶介さん DEXTE-K代表
・浜辺のごみ拾いを20年で大きな運動に 鈴木 吉春さん 環境ボランティアサークル 亀の子隊代表
・「美味しい」を手がかりに大阪湾を再生 岩井 克己さん NPO法人 大阪湾沿岸域環境創造研究センター 専務理事
・環境保全活動を通して、成長する若者たち 草野 竹史さん NPO法人 ezorock 代表理事
・主体性のある人間を自然の中で育てたい 山本 由加さん 認定NPO法人 しずおか環境教育研究会(エコエデュ) 副理事長兼事務局長
・付加価値の高い木材で山を元気に 藤﨑 昇さん NPO法人 もりずむ 代表理事長
・自然を大切にする人を育てる幼児教育 内田 幸一さん 信州型自然保育認定園「野あそび保育みっけ」 園長
・企業経営で培った組織のマネジメント 秋山 孝二さん 認定NPO法人 北海道市民環境ネットワーク 理事長
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 髙木晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

ご利用にあたってプライバシーポリシー
Copyright(C) 2000-2019 Seven-Eleven Foundation All Rights Reserved.