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わが街の環境マイスター 中高生たちが体で覚える森の大切さ
宮村 連理さん (NPO法人「緑のダム北相模」副理事長)

神奈川県に、中高生たちが森林整備に汗を流す場所がある。森林の再生と教育を両立させるこの試みを指導するのは、森がもたらす学びを信じる一人の教師だ。

 

森で変化していく子供ら
 

NPO法人「緑のダム北相模」は、神奈川県の相模湖周辺の森林整備をおこなう森林ボランディアグループで、1998年に設立された。当初は大人のメンバーが中心だったが、20余年たったいまでは中高生や大学生など若いメンバーが多く参加している。そのきっかけをつくったのが、副理事長を務める宮村連理さんだ。宮村さんは、現在教鞭を執る東京学芸大学附属小金井中学校だけでなく、以前勤めていた中学や高校でも教え子に声をかけ、活動に加わる子供たちを増やしてきた。卒業後も参加するOBが大勢いるという。

宮村さんが野外活動の楽しさに目覚めたきっかけは、小学生のとき参加した東京学芸大学主催のキャンプ。電気もガスもない場所で7泊もする、当時としては画期的な内容だった。

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東京学芸大学の構内にある附属小金井中学校で教鞭を執る宮村さん。大学は子供の頃、野外活動の楽しさを教えてくれた場だという
 

「命に関わること以外、大人は口を挟まず、プログラムも子供たちが考え、やりたくないことはやらなくてもいい、その自由さが新鮮だった。流れるプールより川遊びのほうが、何が起こるかわからない無限のおもしろさがありましたね」

大学・大学院では環境系の学科に進み、学外でもさまざまな環境プログラムの活動に参加する中で、「緑のダム北相模」の活動にも参加した。

「ひたすら草刈りをした覚えがあります。それまで山登りはしたことがあっても山を手入れしたのは初めてで、その達成感は半端ではなく、そのまま居着いてしまいました」

その後、最初に就職したのは私立の通信制の高校で、不登校の生徒も少なくなかったが、誘い出して一緒に北相模の森の整備をするうちに子供たちに変化が現れた。

 

「作業して森がよくなっていくのを見ると、学校に行けない自分でもこんなに役立つんだと笑顔が増えていく。保護者の方も、学校の話はしないのに、森であったことは一生懸命話してくれますと喜んでいました」

環境教育の意義を実感した宮村さんは東京都の公立中学校に移った後、「地球環境部」という部活を立ち上げ、さらに積極的に森の活動に子供たちをいざなっていった。

「いまの子供たちは、協力するのが本当に苦手です。自分の仕事だけ終えればいいと思っていて、次にこれをするとみんなが助かるといった思考が働かない。その点、森では、丸太を隣の子がスッと押さえてくれたら切りやすいとか、みんなで声をかけ合って丸太を運ぶと楽だということが、教えなくても自然と学べます」


最新技術を駆使して調査
 

「緑のダム北相模」の主な活動は単に木の間伐や枝打ち、植樹といった作業だけにとどまらない。活動をおこなう森の境界を正確に把握するための測量に始まり、整備後にどんな草が生えてくるか、枝打ちだけと間伐するのとで違いはあるかといった植生調査、シカやイノシシなどの野生動物調査なども実施する。歴代の学校の生徒たちがバトンをつないで継続してきた調査結果を学会で発表したこともあるそうだ。調査にはGPS、ドローン、360度カメラなど、最新技術を駆使している。

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キャンパス内のプレイパークに置かれたコンテナには、森の間伐材を製材した板がぎっしり

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上=自動カンナで板材の表面を削る生徒たち。右=木工の場であるCLT combo(住友林業から寄贈)
 

東京学芸大学附属小金井中に赴任後、力を入れているのが、間伐材の活用だ。中学校は大学のキャンパスと地続きで、構内にある国産杉の集成材(CLT)でできた木造建築物が活動の場となっている。ここは遊びから生まれる学びを実践する大学の拠点で、さまざまな団体が活動しており、室内には多種多様な工具、レーザー加工機、3Dプリンターなどが備わっている。「緑のダム北相模」の活動に参加中の30~40名の中学生たちはここで週2回、森の間伐材を使って、学校の備品や、地域の保育園や公民館で使うおもちゃなどを製作しているのだ。

「普通の学校にはない設備が揃っているし、授業で決まりきった棚を作るのと違って、自分で発案して作りたいものが作れるのが楽しいみたいです。ただの木工クラブじゃないよ、というのが僕の最近の口癖です。山へ行ってもらわないと、こっちばかり楽しくても困るので」


間伐材で大規模な催しも
 

一方、会ではこれまで何度か、間伐材で専門業者に作ってもらった精巧な積み木3万個を使って、東京駅やアンコールワットなど、巨大な構造物をみんなでつくるというイベントを開催し、好評を博している。接着剤を使わず、設計図なしで写真などの資料をもとに組み上げるのだが、全体のデザインを考える子、同じ形の部分を繰り返して正確に積む子、積み木を仕分ける子など、分業によるチームワークがうまく生かされ、規定の時間内にスムーズに積み上げることができるという。

「Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(ものづくり)、Art(芸術)、Mathematics(数学)の五つが融合したSTEAM教育が最近注目されていますが、うちの会の活動はまさにそのものです」

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東京駅で実施した積み木イベント。1週間がかりで東京駅舎を再現した
 

このほか相模原市内の小学生を対象とした森林体験教室など、森と地域をつなぐ活動も展開している。

宮村さんの当面の目標は、現在の学芸大の拠点を活用し、附属中の子供たちだけでなく、小金井市の他校の子供たちにも森の整備や間伐材を使った木工に参加してもらい、さらに活動の輪を広げていくことだ。

「地球が大事とか森が大事だということを頭で知ってるだけじゃなく、中高生のときに森と関わって体で覚えておくことは、将来世の中を動かす立場になったとき、きっと役立つと思います」

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北相模の森で、会のベテランから間伐に欠かせないチームワークを教わる子供たち
CONTENTS
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コンテンツ
・きれいなだけではない、豊かな海に 志田 崇さん NPO法人 あおもりみなとクラブ 理事
・地域が育てる自然を愛する心 吉元美穂さん NPO法人 登別自然活動支援組織 モモンガくらぶ 事務局長
・中高生たちが体で覚える森の大切さ 宮村連理さん NPO法人 「緑のダム北相模」副理事長
・人の関わりが未来の豊かな湿地環境を育む 上山剛司さん 庄内自然博物園構想推進協議会鶴岡市自然学習交流館ほとりあ
・エコツーリズムで館山を元気に 竹内聖一さん NPO法人 たてやま・海辺の鑑定団 理事長
・竹林を舞台に地域の輪をつなぐ 豊田菜々子さん NPO法人 環境保全教育研究所 代表理事
・震災10年 子供たちの声が響く海を取り戻す 伊藤栄明さん 松島湾アマモ場再生会議 副会長
・都市のみどりを次世代へ 村田千尋さん 特定NPO法人 みどり環境ネットワーク! 事務局長
・釣り人の聖地・琵琶湖でごみを拾う 木村建太さん プロアングラー、淡海を守る釣り人の会 代表
・土木工学が出発点。海辺の環境保全に挑む「ハゼ博士」 古川恵太さん NPO法人 海辺つくり研究会 理事長
・故郷の廃村に新たなにぎわいを 松浦成夫さん NPO法人 時ノ寿の森クラブ 理事長
・荒れ果てた藪を、ホタルが舞い飛ぶ森に 伊藤 三男さん 学校法人田中学園 学校法人緑丘学園 監事
・美ら海への思いを大地に植える 西原 隆さん NPO法人 おきなわグリーンネットワーク 理事長
・都市の貴重な干潟を守るボランティアの力 橋爪 慶介さん DEXTE-K代表
・浜辺のごみ拾いを20年で大きな運動に 鈴木 吉春さん 環境ボランティアサークル 亀の子隊代表
・「美味しい」を手がかりに大阪湾を再生 岩井 克己さん NPO法人 大阪湾沿岸域環境創造研究センター 専務理事
・環境保全活動を通して、成長する若者たち 草野 竹史さん NPO法人 ezorock 代表理事
・主体性のある人間を自然の中で育てたい 山本 由加さん 認定NPO法人 しずおか環境教育研究会(エコエデュ) 副理事長兼事務局長
・付加価値の高い木材で山を元気に 藤﨑 昇さん NPO法人 もりずむ 代表理事長
・自然を大切にする人を育てる幼児教育 内田 幸一さん 信州型自然保育認定園「野あそび保育みっけ」 園長
・企業経営で培った組織のマネジメント 秋山 孝二さん 認定NPO法人 北海道市民環境ネットワーク 理事長
・移住者の視点で森の町の課題に挑む 麻生 翼さん NPO法人 森の生活 代表理事
・生ごみの堆肥化で循環社会を創る たいら由以子さん NPO法人 循環生活研究所 理事長
・「地球の消費者」から「地球の生産者」へ 加藤大吾さん NPO法人 都留環境フォーラム 代表理事
・干潟に子供たちの歓声を取り戻す 足利由紀子さん NPO法人 水辺に遊ぶ会 理事長
・日本型の環境教育を求めて 新田章伸さん NPO法人 里山倶楽部 副代表理事
・カメラに託した「水」への熱き思い 豊田直之さん 写真家
・「月に一度は山仕事!」のすすめ 山本 博さん NPO法人 日本森林ボランティア協会 事務局長
・奥能登の昔ながらの暮らしを“再発見” 萩野由紀さん まるやま組主宰
・北海道から広げる自然教育ネットワーク 髙木晴光さん NPO法人 ねおす 理事長
・「森のようちえん」は毎日が冒険 原淳一さん NPO法人 アキハロハスアクション 理事長
・東北に国産材のサイクルを築く 大場隆博さん NPO法人 日本の森バイオマスネットワーク 副理事長
・魚食復活をめざし、本日も全力疾走 上田勝彦さん 魚食復興集団 Re-Fish 代表
・「竹害」との戦いにかけた第二の人生 松原幸孝さん NPO法人 かいろう基山 事務局
・ニッポンバラタナゴの楽園を守る 加納義彦さん NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 代表理事
・雁の里から発信「ふゆみずたんぼ」 岩渕成紀さん NPO法人 田んぼ 理事長
・「夢」は最高のエネルギー 杉浦嘉雄さん 日本文理大学 教授
・宮沢賢治に導かれて山村へ 吉成信夫さん NPO法人 岩手子ども環境研究所 理事長
・「海のゆりかご」再生にかける 工藤孝浩さん 神奈川県水産技術センター 主任研究員
・お金に換えられない価値を知る 澁澤寿一さん NPO法人「樹木・環境ネットワーク協会」理事長
・自然界に学ぶ最先端の技術 仲津英治さん 「地球に謙虚に運動」代表
・豊かな森を人づくりに活かす 萩原喜之さん NPO法人「地域の未来・支援センター」理事長
・自然が先生──生きる力を育てる 広瀬敏通さん NPO法人「日本エコツーリズムセンター」代表理事
・ホタルに託した鎮魂の思い 冨工妙子さん ながさきホタルの会・伊良林小学校ホタルの会 会長
・人とトキのかけはしになる 高野毅さん 生椿(はえつばき)の自然を守る会 会長
・民間の力で都立公園の緑を守る 佐藤留美さん NPO法人 NPO birth 事務局長
・花の湿原を守る肝っ玉かあさん 三膳時子さん 認定NPO法人 霧多布湿原トラスト 理事長
・干潟を拠点に人と自然をつなぐ 立山芳輝さん NPO法人 くすの木自然館 理事長
・子どもたちの冒険に寄り添う 佐々木豊志さん NPO法人 くりこま高原・地球の暮らしと自然教育研究所 理事長
・北海道にシマフクロウを呼び戻す 菅野正巳さん NPO法人 シマフクロウ・エイド
・ふるさと新城をもう一度桜の名所に 松井章泰さん 「100万本の桜」プロジェクト発起人
・1960年代の武蔵野の自然を取り戻す 佐藤方博さん NPO法人 生態工房
・緑ふたたび──三宅島に苗木と元気を! 宗村秀夫さん NPO法人 「園芸アグリセンター」 理事長
・冬の山中湖を彩るキャンドル 渡辺長敬さん NPO法人 富士山自然学校 代表
・年に10万匹のホタルを育てる 坂井弘司さん 旭川市西神楽ホタルの会 事務局長
・築230年の古民家に生きる 時松和宏さん 大分県九重町 農家民宿「おわて」 主人

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