──
|
仕事に熱中しているときというのは、やはり楽しいものですか。
|
挟土
|
いや、苦しいことのほうが多いね。条件を与えられて構想を練ってるときも、実際に作業をしているときも苦しい。 壁は本来、とても不安定なものなんですよ。もともと湿った素材である土に、さらに水を加えて練って塗る。だから実感としては、土じゃなくて水を塗っているんですよ。「蒸発」を感じながら塗っているといってもいい。水は人間にとって一番大事なものだけど、一番不安定で、恐い存在でもある。それをコントロールしていかなきゃいけない。でも読み切れないし、偶然性からも逃れられない。塗り終わったから終わりというわけにはいかないんですよ。塗り終わって1年ぐらいは見守らなきゃいけない。その頃になって、オーナーが喜んでくれていたら自分も嬉しいかな。 結局、左官の仕事って「風景」をつくり出すことだと思うんです。大工がつくった構造物だけじゃ家にならない。四面に壁が塗られてはじめて空間になる。その「面」が風景を生んでいくんです。
|
──
|
これからはどんな仕事をしていきますか。
|
挟土
|
いまいった「風景」にもつながるんだけど、内装とか一軒の家じゃなくて、自然のなかに左官の仕事を全部ぶち込んだような「王国」をつくりたい。じつは、高山市内にあった大正4年に建てられた小ぶりな洋館があって、それを譲り受けたんですよ。その建物を再建するのに、ふさわしい環境を選んで土地も手に入れてある。これは自分がオーナーだから、工期も自分で決められるし、自分のセンスで色も選べる。環境への配慮もする。木の伐採から始めたくらいです。こんな贅沢な仕事はありません。名づけて「歓待の西洋室」。落葉樹の森にどんな「風景」が生まれるのか、それが楽しみです。
|
|
|
「地球の色」を生かすために使いこまれた道具類
|
|
|
はさど・しゅうへい 1962年飛騨高山生まれ。左官職人の2代目に生まれ、技能オリンピック全国大会優勝の技を誇る。2001年独立して「職人社 秀平組」を設立。土壁を純金で仕上げた金沢市内の黄金の土蔵や、土を原料にした化粧品など、その境界をこえた仕事ぶりが賞賛を浴びている。
|
|
|
|
|
|