|
──
|
杉線香づくりに必要なのは山の恵みだけではない。駒村さんの先祖は約100年前、この地に移り住んだ。豊かな清流と、水車を回すのに適した地形があったからだ。
|
|
駒村
|
「明治から大正時代にかけて、この近所だけでも10軒以上の水車小屋があったそうです。もともとこのあたりは水車で商売をする人が集まってできた集落ですからね。私が子供の頃はまだ、水車で菜種油を絞ったり、そばやうどんの粉を挽(ひ)いたりしている家が、何軒か残っていました。それがいつの間にか少なくなって、気がついたら、水車が回っているのはうちだけになっていた。まあ、無理もないでしょう。水車で杉の粉を搗くのも、小麦を挽くのも、手間がかかるばかりで儲からない商売ですから」 |
|
|
──
|
現在、県内で水車を使った線香づくりを受け継いでいるのは駒村清明堂だけだ。その珍しさもあって、最近は線香を買うついでに水車を見ていく人が増えたという。
|
|
駒村
|
「環境学習の一環で見学にくる小・中学生も多いのですが、接していて面白いなと思うのは、大人と子供で反応が違うんですよ。子供のほうが素直に水車のしくみに興味をもってくれる。大人は機械万能の世の中に毒されているのでしょうか。ひととおり説明しても、『すごいですね。それで、モーターはどこにあるんですか』と聞いてくる人がいるくらいですから。それにみなさん、『大変ですね』と心配してくれるんだけど、正直なところ、そういわれても困るんですよ(笑)。こっちは大変だと思っていないし、そう思っていたらとてもできる仕事じゃない。結局は、平成の便利な生活より明治の暮らしのほうが、私の性分にあっているということでしょう。自然の力をうまく活かせば、ここでは何も不自由することはない。100歳の現役水車にそう教えられている気がします」 |
|
|