|
── |
「木を植えて森を蘇らせる」。二瓶さんは決意し、酪農家の仲間に協力を求めた。しかしそこは先人が苦労を重ねて開墾した土地だ。よそものが森に戻そうなんて提案したらどうなるか、不安が先に立った。 |
二瓶
|
思い切って相談してみたら、意外にも賛同してくれたんですよ。先輩の酪農家も、やはり「木を切り過ぎた」という後悔があったみたいでね。じゃあ、やってみようと。 豊かな自然環境を取り戻すことは、何よりもこの土地で生産される牛乳の「安心・安全の証」になります。地元の農協も最新技術を導入して、徹底した品質管理をおこなっていますが、酪農家自らが環境保全に尽くせば、数字では表せない安心感を消費者に伝えることができるんじゃないか。そう考えて、私たちはまず木を植えはじめたんです。
|
── |
二瓶さんら有志は、河畔の湿地など、牧草地として開発したものの利用できない土地に植樹を始めた。河畔の森が再生すると、土砂などが河川へ流出するのを防ぐとともに、落ち葉が分解されて川の養分となり、水生昆虫や魚などの生態系も蘇る。 |
二瓶 |
浜中と、となりの別海町には風蓮川という川が流れていて、この川は根室半島の付け根の風蓮湖へと注いでいます。風連湖は汽水湖で、昔からシジミが特産だったのですが、いまはほとんど採れません。原因は風蓮川上流の牧草地開発による水質悪化です。私たちはその改善のために流域に木を植えて、河畔の森の再生を目指しているんです。08年には風蓮川の支流の堰に魚道を設け、希少な魚が遡上できるようにしました。取り組みは緒についたばかりですし、なにしろ広い土地ですから、成果が上がるまでにはまだまだ時間がかかるでしょう。 |
|
|
── |
息の長い活動を目指すには、安定した組織づくりが欠かせない。2011年、二瓶さんは浜中・別海両町の酪農家を中心とする住民有志とともに、「NPO法人えんの森」を設立した。 |
二瓶 |
えんの森の「えん」は、人と人の縁でもあります。風蓮湖の現場を視察したとき、私は酪農家としての責任を痛感しました。「山の人間が海を汚す」という漁業者の声が、私の耳に届くこともあります。だからこそ上流と下流、陸と海、酪農家と漁業者の縁をつなぎたい。流域で連携しなければ、有効な環境保全はできませんから。 |
風蓮川支流の取水堰に二瓶さんたちが設置した魚道。活動を通じて酪農家と多くの地元住民との縁が生まれ、NPO設立のきっかけとなった |
|