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川の中で舟を正しい航路に導くのは、後方にいる舵取りの役目だ。船頭の仕事は、竿さしが花形のように思われがちだが、そうではないのだという。 |
森田 |
よく「巧みな竿さばき」とかいうでしょう? あれは違います。本当は「巧みな舵さばき」が正しい(笑)。竿さしは舟の前に立つので目立ちますが、操船の主役はうしろなんです。舵取りがお客さんの背後から先を見定めて、川の流れを読みながら舟の方向を決めていく。竿と櫂が推進力をつけて、それを補ってやるという関係ですね。 |
上=竿さし(画面奥)は川底にさした竿に体重を預けたまま、舳先から、森田さん(手前)の座る櫂場まで走り降りて推進力を生み出す。16kmの行程中、それを延々繰り返すのが新人の修業だ。下=400年の歴史を感じる竿の跡
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川底の凹凸や障害物は舟の上からは見えない。川の流れや水量も刻々と変化する。それなのになぜ航路がわかるのだろう。 |
森田 |
水量が増減すると川の景色も一変しますが、いくつか目印があるんです。この岩のこの辺まで水位が来ていたら、こっちの瀬に仕掛けていこうとか、この水かさやったら、あの岩にギリギリまでつけたほうがいいとか。そういう知恵や技術が、400年間ずっと受け継がれてきているんです。いわば、われわれの伝統文化ですよ。それを守り伝えるのも船頭の腕だと僕は思っています。 |
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川下りの技にマニュアルはない。口伝えや先輩の仕事を見て体得していく。船頭歴18年の森田さんも、そうして修業を積み、腕を磨いた。 |
森田 |
新人はまず櫂引きから。次に竿を任されます。竿をさしながら、川底の状態やどういう流れのときにどの航路を通るかなど、目と身体で川を覚えていくんです。航路上の岩には、長年同じ場所を突いたためにできた「竿つぼ」と呼ばれる凹みや、そこだけコケが生えずに白く光って見えるところがあります。そういうポイントを熟知して、うまくさせるようになるのに、3年はかかるでしょうね。舵を持たせてもらうのは、それからです。規定の水位内で、流れがどんな状態であっても、安全に操船できるようになるには、10年かかるといわれます。 |
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