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ウシガエルは、大学の医学部などで解剖実習に使われる。医者の卵たちが筋肉や神経のしくみを学ぶのに欠かせない教材だ。そのカエルを一年中いつでも捕れるのは、いま、日本で大内さん一人しかいない。
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大内
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「だから、大学の先生や学生たちが体のことをよく気にかけてくれますよ。私も今年でもう74歳ですからねえ。現在、取引があるのは約100校。全部で350ほどの研究室にカエルを納めていますが、私がどこか悪くすると、誰かしら声をかけてくれるんです。うちの大学で検査してくださいとか、その薬は副作用が強いからこの薬にしたほうがいいとか、本当にありがたいことですよ」
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北米原産のウシガエルは外来生物法の規制対象。大内さんは環境省の許可を得て生体を扱っている |
やはり研究用に出荷されるアフリカツメガエル。エサをよく食べるので比較的飼いやすい |
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研究用のカエルは個体数だけでなく、性別や体の大きさまで細かく指定される。しかし名人がこれまで注文に応じられなかったことは一度もない。研究者から絶大な信頼を寄せられるゆえんだ。
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大内
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『足が何cmのオタマジャクシを』なんて注文もありました。捕れなかった、では仕事にならない。注文通りのカエルをいつでも必ず手に入れるためには、生態をとことん知らなくちゃいけません。たとえば体の大きさは生息環境によって違うんです。ウシガエルなら、大きい個体は田んぼまわりより、山あいのダムのようなところに多い。だから注文によって捕る場所を変えるんです。冬場でも、たとえば人家から温かい排水が流れてくるような水路には、意外といるんですよ。寒い日が続いて急に気温が上がると、水から鼻をちょこんと出している。人は私のことを『カエルの生き字引』なんていいますが、60年もやっていれば、いつどこに、どんなカエルがどれくらいいるか、だいたい頭に入るもんですよ。そうでなきゃ、カエル捕りで暮らすことはできません」
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作業は夜。注文が入るとそのつど、発送する日の前夜に捕りに行く。一度に数百匹必要な場合もあるが、冬場を除いてストックしておくことはないという。
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大内 |
「置いておくと、エサをあまり食べないから弱ってしまうんですよ。やっぱりイキのいいカエルで実習してもらいたいからねえ。先生や学生は、カエルのお腹の中のことには詳しくても、生態はよく知らないでしょう。だから聞かれれば、扱い方や飼い方なんかについても、できるだけアドバイスするようにしています。雑菌に弱いから、水替えや容器の消毒はまめにやらなきゃだめだ、とかね。学生によく言われますよ。『大内さんはうちの教授よりもうるさい』って(笑)」
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