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今までクマの冬眠には謎が多かったが、撮影された映像や呼吸、心拍数、体温などのデータからさまざまなことがわかってきた。
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小宮
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「爬虫類や小動物は冬眠中、気温と同じくらいまで体温が下がり仮死状態に近づくのですが、クマは平温から5℃程度しか下がりません。呼吸は1分間に2、3回、心拍数は10から20。約3カ月間飲まず食わずで、排泄もしませんが、ずっと丸まって眠り続けているわけではなく、目覚めが近づくと一日の間に少しずつ起きて、伸びをしたりするんです。こういうことは、推測されてはいたものの、今回の研究で初めて実証されました」
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07年3月、クーが初めての人工冬眠から無事に目覚めたとき、小宮園長は喜びと同時に驚きを覚えたという。
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小宮
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「体重が12キロも落ちているのに、出てきたとたん、すごく活発に動き始めたんですよ。人間なら考えられないでしょう、私たちが3カ月も寝ていたら筋肉が落ちてヨロヨロですよ(笑)。じつは冬眠展示を始めるにあたっては『冷蔵庫みたいな場所にクマを入れるな』とか『餌をあげないなんてかわいそう』といった批判がかなりあったんです。苦労といえば、それが最大の苦労かもしれません。でもクーの姿を見て改めて確信しましたね、冬眠することはクマにとって幸せなんだと。 逆に、冬眠できない動物園のクマは栄養過多になることが心配ですよ。野生ではありえない、体重100キロ以上のメタボな個体も珍しくありませんから」
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クマは冬眠中に出産する。将来は、その不思議な生態もぜひ展示したいと小宮園長。今年もまた、クーの冬じたくが始まった。
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小宮
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「冬眠展示は一石数鳥、クマだけでなく人間も幸せにしてくれるんですよ。ひとつは新しい試みに挑戦することによって、うちのスタッフの技術力が高まること。そしてもうひとつは、お客様にも動物のほんとうの姿を知っていただけることです。これまで動物園で動物が寝ていると、つまらないとお客様に叱られたものですが、今回は初めて寝ている姿を見せて喜ばれましたからね。ゆくゆくは冬眠する動物は、みんな冬眠させてやりたいなあ。自然のすばらしいしくみを目の当たりにすれば、誰も『かわいそう』なんていわないでしょう。でもそうすると、上野動物園の冬じたくはてんてこまいになるかな(笑)」
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樹洞を模した冬眠ブース。
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左:冬眠中のクー。体重の変化などが自動的に測定される。 / 右:来園者にはモニターで展示
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Profile
こみや・てるゆき
1947年東京生まれ。明治大学農学部卒業後、東京都職員となり多摩動物公園に飼育係として配属。上野動物園の飼育係長や同課長などを経て、2004年に15代園長に就任。飼育畑出身の園長就任は同園では初。動物や動物園に関する著書多数。 |
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