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やさしい冷たさ、というんでしょうか。ふつうのかき氷よりも、舌の上でふんわりと溶けるから、氷そのものの甘みがよくわかりますね。これが天然氷の味ですか。
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阿左美
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「やっぱり水がうまいんですよ。このあたりにはまだ、秋になれば色づいて枯れ葉がたっぷり積もるような、昔ながらの里山が残っているでしょう。そういう山の腐葉土をゆっくりくぐって湧いてくる水だから、養分が溶け込んでいて旨味や甘みが濃いんです。落葉広葉樹林に育まれたいい水がなければ、この氷は絶対にできません。だから山を守りたくて、地元の森林組合に一人でかけあったこともありましたよ。15年ほど前かなあ。伐採・植林が進められて、山が杉やヒノキに占領されそうになったとき、もうやめてくれって。それでなんとか開発が止まり、いまのところ水質悪化を免れているんです」
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かつて秩父には、天然氷をつくる蔵元が10軒近くあったそうですね。
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阿左美
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「私が子どもの頃にも、うち以外に1、2軒は残っていました。このあたりは水質がいいだけでなく、もともと天候や地形の面でも野天製氷に適した土地ですから。冬場は、放射冷却で朝の冷え込みが厳しいし、沢沿いの氷池には、1月の中旬まで一日じゅう陽が当たらない。張った氷が溶けにくいんです。もっとも作業するほうは凍えて大変ですけどね。いくらいい水といい気候条件がそろっていても、それだけでいい氷ができるわけじゃありませんから」
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店の庭先で味わう氷の味は格別。店内には阿左美さんの版画も展示されている
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