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日本に住んでもう30年。「最初は2、3年のつもりだったのに」と振りかえるネプチューンさんは現在、千葉県・鴨川の竹林の中に居を構える。
文字通り、竹に囲まれた暮らしぶりだ。
手づくりの自宅の一角には本格的な工房を備え、尺八製作にもいそしんでいる。自分の目で竹を選び、自分の手で掘り出すこだわりよう。確かな技術と音に対する繊細な感性が評判を呼び、注文はひきもきらない。
「修業を積むうちに、既製品の尺八の音では満足できなくなったんです。メーカーにあれこれ文句をいうくらいなら、自分でつくったほうが早いと思って始めました」。
楽器の素材は、できるだけ近場で探すのがネプチューン流。良質な竹の産地として知られる南房総だけに、「歩いて5分」の裏山で手頃なマダケやモウソウチクが見つかることも珍しくはない。
しかし最近は各地の里山同様、この辺りの竹林にも人の手が入らず土地の荒廃が目立つという。日本人と竹が縁遠くなり、竹の恵みが忘れ去られつつある現状には、陽気なネプチューンさんもさすがに顔を曇らせた。
「手入れが大変なのは私もよくわかります。うちの竹林もちょっと怠けると、大変なことになってしまいますからね。でも日本人は、昔からすぐれた竹文化を受け継いできたでしょう。天然資源としての竹のすばらしさを、ほかのどの民族よりも深く理解していたからです。なのに、もったいない! 使わないで放ったらかしにするなんて」
製作者として手がけるのは、尺八だけではない。竹の管や竹の板、竹の皮に竹炭など、さまざまな竹材を巧みに活かして新しい楽器づくりに挑戦している。そんな竹の楽器のみで編成されたグループ「竹竹」(“竹だけ”という得意のダジャレ!)を10年ほど前に結成。精力的に活動を続けているのも、その音色を通して、人々に竹という植物の可能性を見直してほしいと願うからだ。
「見てよし。聴いてよし。もちろん食べてもおいしいですね」
春になると、自宅周辺の竹林で「採っても採っても採れる」たけのこが、ネプチューン家の食卓を彩るという。
日本人が忘れつつある「竹のこころ」を追い求めて、尺八奏者の旅はどこまでも続く。
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尺八用の竹は採ってから最低2年間は乾燥させる
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尺八はマダケの根元を使う。掘り出してみないとその良し悪しはわからない
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Profile
John KAIZAN Neptune 1951年米カリフォルニア州オークランド生まれ。尺八奏者・作曲家。ハワイ大学在学中に尺八と出会い、72年に来日。数年の修業を経て都山流師範となり、雅号「海山」を授かる。79年、アルバム『バンブー・テクスチャー』でプロデビュー。翌年には外国人アーティストとして初めて芸術祭優秀賞を受賞。以来、尺八と世界の民族音楽の融合をテーマに国際的な活躍を続けている。 |
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