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海の近くで生まれ、以前は海の生き物が好きだった。虫目に目覚めたのは十数年前、1匹のクモとの出会いがきっかけだった。 |
鈴木 |
家族でよく海へ行ったりしたのですが、子どもが成長するにつれてそういう機会も少なくなり、つまらないなと思っていたある日、ふと部屋の壁を見ると、1匹のハエトリグモがいたんです。手元にたまたま写真用のルーペがあったので、面白半分にパッとかぶせてのぞいてみたら、びっくり! 巣を張らずに獲物をつかまえるハエトリグモは、クモの中でも視覚が発達しているんですね。そのクモが頭部を上げると同時に、大きな目玉が黒から灰色に色を変えて、こっちを見たんです。こんな小さな虫と目が合うなんて。身近にこんなおもしろい世界があるとは思ってもみませんでした。そうと知って辺りを探してみたら、ほかの虫たちが次々と見えてきて、「これならわざわざ海まで行かなくてもいいじゃない」と(笑)。以来、虫への興味は膨らみ続け、いまだに収まる気配はありません。 |
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「虫を好きになってから人生が3、4倍楽しくなった」と喜ぶ鈴木さん。どこにそれほど惹かれるのか。 |
鈴木 |
無脊椎動物の虫は背骨がないかわりに、外骨格といって、体表が硬くなっています。この外骨格は、成長とともに伸びてはくれません。だから虫は成長の過程で脱皮をくり返し、体の形状やしくみそのものも変えていく。つまり「変態」するわけです。そんな無脊椎動物ならではの〝骨のない生き方〟は、変態をしない脊椎動物の私から見ると、すごく奔放で奇想天外。そこに憧れさえ覚えてしまうんです。その意味で、卵から幼虫、サナギ、成虫へと完全変態を遂げ、しかも劇的に姿を変えていくチョウやガの仲間には、特別な思いがありますね。もちろんその翅の多彩な色模様、壊れそうなはかない姿形にも魅力を感じます。喩えるなら、チョウの美しさはあでやかな振袖、ガは小粋な江戸小紋といったところでしょうか。 |
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