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バーナーで炭に火を入れ、コークスをかけると、パチパチ爆ぜる音とともに火の粉が高く舞い上がる。120余年前から受け継がれてきた野鍛冶の技が炎に宿る瞬間だ。
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野口
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「小学五年の頃から家の仕事を手伝い、鉄の塊がいろんな形に変わるのを面白いなと思っていました。昔は『向こう打ち(むこうぶち)』といって、二人一組でトンカン、トンカンと鉄を叩き合う手伝いをよくやらされたもんです。鍛冶屋のくらしは火と一体化していますから、火を大事にする気持ちが強く、いいものがつくれるように、けがのないようにと、たえず火の神様にお祈りしています。毎月一日に近所の神社にお参りする『一日(ついたち)参り』も、親父の代から半世紀以上欠かしたことはありません」 |
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「使う人の声に耳をかたむけ、使う人の身になって」が野口さんのモットーだ。店頭でお客さんの注文を直接聞き、裏手にある工房で製作や修理に励む。
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野口
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「野鍛治は“地元密着型”の仕事です。土地によって土の硬さが違うし、お客さんの背丈によって使い勝手も違うからね。要望を細かく聞いて、少しでも使いやすいものを、と工夫しています。30年以上も前に『野口式万能両刃鎌』を考案した親父は、ほんとうに研究熱心でしたよ。75歳で引退するまで、朝から深夜まで作業場にいてね。そんな先代の仕事ぶりをこの目で見て、体に染みこませるようにして覚えてきました」
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